ソウルの街を1時間も歩けば気づくことがある。ベビーカーより犬用ベビーカーのほうが目につく、という事実だ。これは印象ではなく、統計に裏打ちされた現実である。
まず結論から
- 韓国世帯の29.2%がペットと暮らしている(2025年農林畜産食品部調査、過去最高)。飼育者は1,546万人。
- 犬が80.5%と圧倒的だが、マンション中心の住環境ゆえにマルチーズ・プードル・ポメラニアンといった小型犬が半数以上を占める。
- 2023年、オンライン通販で犬用ベビーカーの売上がベビーカーを初めて逆転。2027年からは犬食が法的に禁止される。
韓国はいま何頭と暮らしているのか?
農林畜産食品部が全国3,000世帯を訪問面接して集計した2025年調査で、ペット飼育世帯率は**29.2%**となった。調査開始以来もっとも高い数字であり、長年使われてきた「4軒に1軒」という言い回しが「3軒に1軒」に切り替わったタイミングでもある。
数字を紐解くと、種の偏りがはっきり見える。ペットを飼う世帯のうち犬を飼っている割合は80.5%、猫が14.4%、魚類が4.1%だ。ただし頭数ベースで見ると、猫のほうが密度が高い。1世帯あたりの平均飼育頭数は犬が1.11頭なのに対し、猫は1.27頭。猫を飼う家では2頭以上飼うのが珍しくないということだ。
犬は政府が数え、猫は推定する
韓国では、生後2か月以上の犬の登録が法的義務となっている。未登録には100万ウォン以下の過料が科され、登録犬が死亡した場合は30日以内に抹消届を出さなければならない。一方、猫の登録は試験事業としての任意登録にとどまるため、飼育猫の数は標本調査にもとづく推定値に近い。実際の猫の生息数は統計よりも多い可能性が高い。
韓国の犬はなぜこんなに小さいのか?
ソウルで大型犬に出会うのは容易ではない。理由は単純だ。韓国の都市世帯の大半がマンションに住み、マンション管理規約や隣人間の騒音トラブルが犬種選びを事実上限っているからだ。その結果が、マルプポと呼ばれる3大犬種 — マルチーズ、プードル、ポメラニアン — の支配である。「マルプポ」は3種の頭文字をとった韓国語の略称で、小型犬ブームの代名詞として広く使われている。
🐶 韓国で最も多く飼われている犬種
| 順位 | 犬種 | 割合 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1 | マルチーズ | 20.4% | 3〜4kgの白い小型犬。長年「韓国の国民犬」として君臨 |
| 2 | プードル | 18.9% | 抜け毛が少なくマンションの室内飼いに最適。トリミングのバリエーションも豊富 |
| 3 | ミックス犬 | 15.1% | 保護施設からの譲渡増加にともない割合が上昇中 |
| 4 | ポメラニアン | 12.8% | 2010年代後半以降に急浮上 |
| 5 | ビション・フリーゼ | 7.0% | おとなしい性格で初心者にも人気 |
上位5種のうち4種が10kg未満の小型犬だ。この構造は産業にもそのまま反映されており、韓国のペット用品・衣料・トリミング市場は小型犬サイズが標準設計になっている。大型犬を連れた旅行者が、適切なサイズの用品や同伴可能な施設を見つけにくい理由でもある。
犬用ベビーカーがベビーカーより売れる国
韓国のペット文化をひとつの場面で説明せよと言われたら、おそらくこれだろう。オンラインショッピングモール「Gマーケット」における犬用バギー、通称ケベカー(개모차)の販売シェアは、2021年33%、2022年36%だったのが、2023年に57%へ跳ね上がり、ベビー用バギー(43%)を初めて逆転した。ウォール・ストリート・ジャーナルがこの統計を引用して報じ、海外でも話題になった。
この流れを指す言葉がペットファム層(펫팸족)だ。ペットを家族の一員とみなすこの意識は、支出にもはっきり表れている。KB金融の2025年調査では、ペット飼育満足度は76%と前年比8.7ポイント上昇。譲渡・飼育・治療・葬儀を合わせた生涯総費用への意識も同時に高まった。市場規模は2023年の約4兆ウォンから2027年には6兆ウォン台へ成長すると見込まれている。
呼び名が先に変わった
韓国の変化はまず言葉に現れた。1990年代までの標準語は愛玩動物(애완동물)、文字どおり「愛しんで玩(もてあそ)ぶ動物」だった。2000年代以降、この言葉は伴侶動物(반려동물)、すなわち「人生をともにする伴侶」へと置き換えられ、いまでは政府文書も法令もすべて後者を使う。「愛玩動物」と言えば旧世代的な響きか、無神経に聞こえる。
覚えておきたい表現
- 伴侶人(반려인)・保護者(보호자) — 飼い主(オーナー)の代わりに使われる言葉。「犬主(견주)」も依然使われるが、公的な表現としては「保護者」が好まれる。
- テンセンイ(댕댕이) — 「ワンワン」を意味する韓国語「モンモンイ(멍멍이)」の字形をわざと崩したインターネット発の造語。いまでは日常語に近い。
- 下僕(집사) — 猫を飼う人の自称。猫が主人で人間はお世話係、というジョークから生まれた。日本の猫好き文化とも通じる表現。
- ニャンイ(냥이)・ヤオンイ(야옹이) — 猫の愛称。野良猫の世話をする人はキャットマム(캣맘)・キャットダディ(캣대디)と呼ばれる。
- 虹の橋を渡った — ペットの死をやわらかく言い表す婉曲表現。韓国語では「ムジゲダリ(무지개다리、虹の橋)を渡った」と言い、日本でも同じ「虹の橋」の概念が浸透している。
犬肉はどうなったのか?
外国人が韓国のペット文化について最も頻繁に尋ねる質問であり、答えは明確だ。2027年から法律で禁止される。
2024年1月9日、国会は「犬食用終息特別法」を賛成208票、反対0票で可決した。法律公布から3年後の2027年より、食用目的の飼育・屠殺・流通・販売が全面禁止され、違反した場合は最大3年以下の懲役または3,000万ウォン以下の罰金が科される。新規の農場・屠畜・流通営業は法律公布と同時に禁止され、政府は廃業する農家や業者の転業を支援している。
法より先に動いたのは世代だった。犬食はすでに数十年にわたって減り続けており、20〜30代のあいだでは事実上消滅した慣習に近い。飼育犬と暮らす人が1,500万人を超えた社会において、この法律は変化の原因というより、結果である。
数字の裏にある影
明るい統計ばかりではない。2024年の1年間に発生した遺棄動物は106,824頭で、犬が77,304頭(72.4%)、猫が27,826頭(26.0%)だった。5年連続で減少し、10年ぶりに年間10万頭ラインに近づいたが、保護施設に収容された動物の結末は依然として重い。
📉 動物保護センター収容動物の転帰(2025年集計)
| 転帰 | 割合 | 頭数 |
|---|---|---|
| 新たな飼い主へ譲渡 | 25.6% | 24,528頭 |
| 自然死 | 25.7% | 24,545頭 |
| 安楽死 | 17.3% | 16,561頭 |
譲渡率も安楽死率も前年より改善したが、収容された個体の約43%が保護施設のなかで生涯を終える。全国273か所の動物保護センターに投じられる予算は年々増えており、連休直後に遺棄の通報が急増するという季節性も繰り返される。この問題意識こそが、ミックス犬の譲渡率を15%まで押し上げた背景でもある。
ペットと一緒にソウルを歩けるか?
可能だ。ただしルールは細かい。
旅行者のための実用Tips
- 公共交通機関 — 地下鉄とバスは、ペットを完全に閉まるキャリーバッグに入れた場合のみ乗車できる。リードだけでは拒否されることがある。盲導犬は例外。
- ショッピングモール — ヨイド(汝矣島)IFCモールのように犬の同伴が可能な場所もあるが、多くは狂犬病予防接種済み・10kg以下・1m以内のリードまたはベビーカー使用といった条件がつく。
- ホテル — ペット専用ルームを設ける高級ホテルが増えた。ソウルドラゴンシティはペット専用ルーム15室を、コンラッド・ソウルはペット用ルームサービスを提供している。予約時に犬種・体重制限を必ず確認すること。
- カフェ・レストラン — ペット同伴可のカフェはソンス(聖水)・ヨンナム(延南)・ハンナム(漢南)エリアに集中している。一般の飲食店はほぼ同伴不可。
- 入出国 — 韓国入国時にはマイクロチップ、狂犬病予防接種証明、国によっては抗体価検査の結果が必要。準備に最低でも数か月かかるため、早めの確認が必須。
旅行者の目にこの文化が映るとき、それはたいてい些細な光景だ。カフェの窓辺に置かれた犬用ベビーカー、コンビニの棚に並ぶペット用おやつ、マンション敷地内の犬専用散歩道。しかしその些細さこそが、この国でペットがもはや特別な存在ではなく、日常のデフォルトになった証拠である。
データと出典
- 農林畜産食品部「2025年ペット飼育現況および動物福祉国民意識調査」(全国3,000世帯訪問面接、2024年10〜12月実施)
- KB金融持株経営研究所「2025韓国ペット報告書」(2025年6月発行、2024年末基準)
- 農林畜産検疫本部「遺棄・遺失動物および動物保護センター運営実態」(2024〜2025年)
- Gマーケット ペット用・ベビー用バギー販売シェア(2021〜2023年)/Wall Street Journal 報道
- 「犬の食用目的の飼育・屠殺および流通等終息に関する特別法」(2024年1月9日国会通過、2027年施行)
- 動物保護法 — 動物登録制および過料規定