韓国の若者の間で サルモク という言葉が使われるようになって20年以上になる。直訳すれば「米を買って食べること」。ゲームで集めたアイテムやゲームマネーを現金に換えて生活費をまかなうという意味だ。最初は嘲笑だったが、いまやメディアがそのまま使う社会現象の名前になった。ある人にはお小遣い稼ぎであり、ある人には仕事に代わる一日のルーティンだ。
まず結論から
- サルモク=ゲーム内の通貨・アイテムを売って米を買うこと。語源はWorld of Warcraft時代のからかい。
- 報道された実収入は月150万〜200万ウォンが最多。1日2〜4時間で日10万ウォンの例、一時月500万ウォンの例もある。
- 韓国のアイテム現金取引市場は最低でも1兆1,140億ウォン規模(2022年推計)。アイテムマニア・アイテムベイの2社がほぼすべてを占める。
- 個人間取引は2009年の最高裁判決で処罰対象外だが、ゲーム会社の規約では大半が禁止。合法と違法の間のグレーゾーンで回っている。
サルモクという言葉はどこから来たのか?
語源はWorld of Warcraft。ゲーム内のゴールドを現金で売るプレイヤーを「ゴールドを売って米を買って食べる」とからかった言葉が縮まって サルモク として定着した。派生語の サルモク虫(サルモクチュン) — ゲームを金儲けの手段としか見ないプレイヤーを非難する言葉 — がいまもコミュニティで使われているのを見ると、この言葉には今も棘が残っている。
しかし2020年代に入ってニュアンスは大きく変わった。メディアが若者の雇用の記事でこの言葉をそのまま使い始め、情報を共有する専門コミュニティ(サルモクドットコム)まで生まれた。今の韓国で「サルモクする」という言葉は、おおむね「ゲームでお金を稼ぐ」という事実の説明に近い。
覚えておきたい韓国語
- サルモク — ゲーム内の通貨・アイテムを売って生活費を稼ぐ行為、またはその人。
- 作業場(チャゴプチャン) — PC数十〜数百台を回して通貨・アイテムを大量生産する組織。多くは違法なマクロを使う。
- リンジョシ(リネージュ+おじさん) — リネージュ系に大金をつぎ込む30〜50代の男性プレイヤー層を指す言葉。
- 現取引(現金取引) — ゲーム内の通貨・アイテムをゲーム外の現金と交換すること。サルモクの実行手段。
実際にいくら稼ぐのか?
最も多く報じられているのは 月150万〜200万ウォン だ。2026年の韓国の最低賃金の月換算額とほぼ同じか、少し低い水準。一人暮らしで節約すれば生活はできるが、貯金は難しい金額だ。
💰 報道で確認されたサルモクの収入例(2026年1月・5月報道)
| 事例 | 年齢 | ゲーム | 環境・時間 | 収入 |
|---|---|---|---|---|
| Aさん(華城在住) | 31 | メイプルストーリーワールド | PC2台・1日2〜4時間 | 1日最大10万ウォン |
| Bさん | 28 | オンラインゲームのアイテム販売 | PC3台・2年前に退職して専業 | 月200万ウォン |
| アンさん | 34 | メイプルランド | 1日8時間前後・低レベルプレイヤーの狩り代行 | 月150万〜200万ウォン |
| シンさん | 30 | 複数ゲーム併行 | PC3台・初期設定費用 約1,000万ウォン | 一時月500万ウォン → 直近は月200万ウォン前後 |
この表で見落としやすい数字が、シンさんの初期費用 1,000万ウォン だ。サルモクは無資本の副業ではない。複数キャラクターを同時に回すにはPCとアカウントとゲーム内装備を先に揃えなければならず、投資を回収する前にゲームの相場が崩れればそのまま損失になる。
どのゲームで稼ぐのか?
サルモクが成立するゲームには共通条件がある。①プレイヤー間の取引が開かれていて、②時間を費やせば通貨がコンスタントに手に入り、③その通貨を買いたい課金プレイヤー層が厚いこと。3つ目が核心だ。誰かがお金を出して買ってくれなければ、サルモクは成り立たない。
注目すべきは、ここに名前を挙げたゲームの多くが 10〜25年前の旧作 だということだ。最新グラフィックの新作ではなく、経済システムが長く回って相場が形成され、課金層が定着したゲームがお金になる。サルモクの世界では、ゲームの年齢は欠点ではなく資産なのだ。
ゲーム内のお金はどうやって銀行口座に入るのか?
取引はほぼすべて2つの仲介サイトで行われる。アイテムマニアとアイテムベイだ。2社はいずれもビーエヌエムホールディングスが株式100%を保有する兄弟会社で、韓国のアイテム取引の90%以上がこの2社を通る。事実上の独占だ。
🔁 サルモク1件が現金になるまで
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 収集 | 狩り・クエスト・日次コンテンツでゲームマネーとアイテムを集める |
| 2. 出品 | アイテムマニア・アイテムベイに出品。相場はサイトの相場板にリアルタイム表示 |
| 3. 決済 | 購入者が仲介サイトに代金を預ける(エスクロー) |
| 4. 受け渡し | 出品者と購入者がゲーム内で会って通貨・アイテムを渡す |
| 5. 精算 | 購入確定時に仲介サイトが手数料5%を差し引いて出品者の口座に入金 |
手数料がこの市場の大きさを示す唯一の公開指標だ。2022年の2社の仲介手数料収入は、アイテムマニア運営会社のアイエムアイが448億ウォン、アイテムベイが109億ウォンで、合計557億ウォンだった。ここに手数料率5%を逆算すると、取引規模は 1兆1,140億ウォン になる。2サイトを通さない直接取引や、手数料上限(4万7,000ウォン)を超える大口取引は含まれていないので、実際の市場はこれより大きい。
旅行者が知っておくと面白いこと
- アイテムマニア・アイテムベイの相場板はログインなしで見られる。ゲームごとに100万ゴールドが何ウォンなのか、株価チャートのように上下する。
- PC房に座っている人の一部は遊んでいるのではなく働いている。複数の画面に同じゲームが映っていたら、多アカウント運用の可能性が高い。
- ソウルのPC房の料金は1時間1,000〜2,000ウォン台。サルモク側から見れば、これが事務所の家賃だ。
これ、合法なのか?
短く答えると、個人間の取引は処罰されず、業としての換金とオート使用は違法、ゲーム会社の規約上は大半が禁止だ。3つの層が異なる。
法的根拠はゲーム産業振興に関する法律 第32条第1項第7号。ゲーム利用で得た成果物を「換金または換金の斡旋、再買取を業として行う行為」を禁じている。争点はここでいう成果物が何かということで、2009年12月24日に最高裁が答えを出した。リネージュのゲームマネー「アデナ」を現金取引した事件で、最高裁はアデナが偶然得た射幸性の成果物ではなく、利用者が相応の時間と労力、実力を費やして得た正当な成果物であり、処罰対象ではないと判断した。
⚖️ 何が許され、何が許されないのか
| 行為 | 法的地位 | 備考 |
|---|---|---|
| 直接プレイして得た通貨・アイテムを個人が販売 | 処罰対象外 | 2009年最高裁判決 |
| オート・マクロで得た通貨・アイテムの換金 | 違法 | 「非正常的な利用」— 判決が明確に除外 |
| 射幸性ゲームマネーの換金を業として行う | 違法 | ゲーム産業法32条1項7号 |
| 作業場の運営(大量マクロ) | 違法 | 業務妨害・情報通信網法違反が併せて適用されることも |
| ゲーム会社の規約 | 大半が禁止 | アカウント停止・回収の可能性。法律とは別の問題 |
| 所得申告 | 課税対象 | 反復的・継続的な収益なら事業所得として申告義務 |
最後の2行が実務上もっとも重要だ。法律で処罰されないことと、ゲーム会社がアカウントを守ってくれることはまったく別の話だ。ゲームマネーは所有権ではなく、ゲーム会社が定めた条件の中で使える利用権だというのが業界の基本的な前提で、摘発されればアカウントも通貨も一緒に消える。サルモクで積み上げた資産が一夜にしてゼロになる構造だ。
なぜ韓国でここまで大きくなったのか?
3つの要因が重なった。
第一に、インフラと歴史。1998年のリネージュ以降、韓国は20年以上にわたってプレイヤー間経済が生きているMMORPGを大量に作り続け、PC房という安価な常時接続環境が全国に張り巡らされていた。この市場は一朝一夕に生まれたのではなく、20年以上かけて蓄積されたものだ。
📈 アイテム現金取引市場の規模の推移
| 時点 | 規模 | 背景 |
|---|---|---|
| 2001年 | 100億ウォン未満 | アイテムベイ発足 |
| 2002年 | 1,000億ウォン突破 | リネージュ全盛期 |
| 2006年 | 1兆ウォン突破 | ゲーム産業振興法制定(32条の換金禁止条項) |
| 2022年 | 1兆1,140億ウォン(最小推計) | 前年比7.1%減 |
第二に、課金格差。韓国型MMORPGは、少数の高額課金プレイヤーが売上を支える構造で設計される。時間がなくお金のあるプレイヤーがいれば、その反対側に時間はあってもお金のないプレイヤーの市場が自動的に生まれる。サルモクはこの格差の上に成り立つ職業だ。
第三に、若者の雇用環境。京畿道の若者(19〜39歳)の経済活動人口は24か月連続で減少し、2026年4月の京畿道の雇用率は63.5%と、前年同月より1.0ポイント低下した。仕事を離れた主な理由には、労働条件への不満と雇用の不安定さが挙げられた。
当事者たちの言葉はおおむね後者より前者に近い。会社を辞めて専業サルモクになった28歳のBさんは「上司のストレスを受けながら働くより、自分の空間で気ままに楽に働けるのが一番いい」と話す。ゲームが趣味の場であると同時に労働の場にもなっているということだ。
外国人でもできるのか?
技術的には難しく、現実的にはおすすめしない。韓国のオンラインゲームのアカウントは大半が本人認証(携帯電話またはi-PIN)を要求し、アイテム仲介サイトの精算は韓国の銀行口座にしか対応していない。短期滞在者がこの2つの関門を正規に通るのは容易ではない。
ただし観察はいくらでもできる。弘大・江南・新村の24時間PC房に入ってみれば、画面3〜4枚に同じゲームを立ち上げて静かに反復作業をする人を難なく見つけられる。韓国のゲーム文化の一面を最も凝縮して見られる光景だ。
データと出典
- インベン「アイテム取引市場は1兆1,140億ウォン規模…前年比7.1%減」(2023-04-12)— 市場規模・手数料収入・仲介会社の支配構造
- キホイルボ「会社を辞めて『サルモク』にログイン…仕事のパラダイムが変わる」(2026-05-14)— Aさん・Bさんの事例、京畿道の雇用統計、ファン・ソンジェ教授インタビュー
- アジア経済「“就職の代わりに狩りをしたら月500万ウォン”…ゲームで食べていく若者たち」(2026-01-14)— アンさん・シンさんの事例、サルモクドットコム
- 最高裁 2009. 12. 24. 宣告(リネージュのゲームマネー「アデナ」現金取引事件)
- ゲーム産業振興に関する法律 第32条第1項第7号
- アイテムマニア・アイテムベイの相場板(手数料率・リアルタイム相場)