海外の旅行ガイドでは、明洞(ミョンドン)はたいてい「ソウルのショッピング&グルメの一番地」として紹介されます。でも、ソウルっ子に「明洞ってよく行く?」って聞いてみると、だいたい「買い物では行かないね」と返ってくるんです。じゃあ行かないのかというと、そうでもなくて——**「ご飯なら明洞」**という人は結構多い。朝鮮時代からずっと商業の中心地で、100年を超える老舗や華僑中華が路地裏にしっかり生きているからなんですね。
というわけで、今回は観光客でごった返す大通りじゃなくて、韓国人がほんとに並んで食べてる明洞のお店を、その背景にある歴史と一緒にご紹介します。
短い答え(2026年)
- 明洞は朝鮮の 泥峴(チンゴゲ) → 開港後は日本人街 本町(ホンマチ) → 戦後ソウル随一の 商業1番地 へと続く街。
- 大通りには 観光客に相場以上を取る焼肉店・客引き も混在。要注意。
- 地元の人は 路地裏の老舗(コムタン・ソルロンタン・カルグクス・冷麺・トンカツ)と 華僑中華 を選ぶ。
明洞って、ほんとはどんな街だったの?——泥峴から本町へ
いまは化粧品のロードショップがずらりと並ぶ明洞ですが、この商業の歴史、実は朝鮮時代までさかのぼるんです。朝鮮時代、ここは南山のふもとの**南村(ナムチョン)の一角で、とくに泥峴(イヒョン、チンゴゲ)**と呼ばれていました。雨が降るたびに南山から流れ落ちた土でぬかるんだ——そのまんま「泥の峠」という地名ですね。出世の見込みがない貧しい儒者たちがひっそり暮らす、静かな町だったそうです。
そこから一変するのが開港以降。1885年、日本公使館がこの泥峴一帯を日本人居留地に指定し、日本の商人たちが店を構え始めます。1890年代から1900年代にかけて大規模な道路・下水道工事が行われ、近代的な商店街へと変貌。1914年には地名が**本町(ホンマチ)**に改められ、電灯が灯り、ソウル随一の消費の中心地になっていった。1930年に三越百貨店の京城支店(いまの新世界百貨店本店)が開業したころには、百貨店、カフェ、劇場、レストランが連なる「モダン京城」の象徴だったんです。面白いことに、1922年の調査では、日本側の店の客のなんと8割が朝鮮人だったという記録も残っています。つまり——明洞が「よそ者」でにぎわうのは今に始まったことじゃなくて、もう100年来のこの街の性格なんですね。そして、その長い商業の歴史があるからこそ、明洞には他の街にはない古い食堂が何層にも積み重なっているんです。
じゃあ、なんで今の韓国人は明洞に行かなくなったの?
10年〜20年前まで、明洞は韓国人にとって買い物とデートの聖地でした。それが、弘大(ホンデ)、江南(カンナム)、聖水(ソンス)、漢南(ハンナム)——個性あるエリアが次々に台頭して、若い韓国人の足はそちらへ。そしてコロナで一度商圏がガタっと崩れ、そこが外国人観光客中心で埋め直された。結果、いまの明洞は「韓国人より外国人が多い通り」に近い状態なんです。
| 時期 | 明洞の姿 |
|---|---|
| 〜2010年代初め | 韓国人の買い物・デートの聖地、化粧品ロードショップ全盛 |
| 2017年〜 | THAAD後、中国団体観光が急減し商圏が揺らぐ |
| 2020〜2022年 | コロナで空室率が急騰(一時40%台) |
| 2023年〜 | 外国人観光客が回復し「1番地」復活——ただし韓国人の足は以前ほどではない |
明洞のある大型ドラッグストアでは外国人売上比率が約9割に達するとも言われていて、大通りがいかに観光に依存しているかがよくわかります。その結果、韓国人の相場感覚とはちょっとズレた値付けの区間が生まれてしまった。で、ここからが大事な話なんですが——
明洞で気をつけること——観光客向けの焼肉と客引き
明洞で地元の人がいちばん警戒してるのは、観光客に相場より高い値段をふっかける焼肉店です。見分け方のポイントは簡単で——店員が外に立って外国語で客引きしてる食べ放題サムギョプサル店、そして「1人前」の基準がぼんやりしていたり、値段表示が不透明なカルビ・焼肉店。これ、けっこう赤信号です。観光客に人気=即ダメ、というわけじゃないんですが、明洞にかぎっては値段のハッキリしない焼肉店には用心、と覚えておいてください。
地元の人がどうしてるかというと、答えはシンプル——メニューに値段がきちんと明示されていて、ぼったくりの入り込む余地がない「単品の老舗」を選ぶんです。コムタン、冷麺、カルグクス、そして中華。コムタン一杯、チャジャンミョン一皿——この「値段が決まった料理」なら、安心して食べられます。以下の10軒がだいたいそういう店なのも、まさにその理由からです。
なぜ明洞には古い中華料理店が多いの?——大使館と華僑の商圏
明洞のグルメで絶対に外せないのが華僑(ファギョ)中華です。明洞2街のど真ん中には中国大使館がありますが、これは偶然じゃない。1882年の壬午軍乱(イモグンナン)で清軍およそ3,000人がソウルに駐屯した際、商人や職人がいっしょに入ってきて、明洞と隣の小公洞(ソゴンドン)一帯に定着——これがソウル最古の華僑タウンの始まりなんです。大使館(旧・清国商務公署の跡地)を核に形づくられたこの商圏が、いまも明洞の路地に華僑中華が多い理由ですね。
ただ、ここで出しているのは本格中国料理じゃなくて、韓国式の華僑中華——チャジャンミョン、チャンポン、タンスユク。韓国で独自に進化した、あの味です。チャジャンミョンそのものが、仁川と並んでこのソウル華僑商圏で根づいた料理でもある。観光客は大通りのチェーン飲茶店に向かうけど、地元の人は路地裏の古い華僑中華で、鍋振りの香りが立つチャジャンミョンをすする——そんな風景が、今も残っています。
地元の人が明洞で本当に通う店、10軒
ダイニングコードとNaverプレイスの評価、そして長年の地元での評判をもとに、観光客向けじゃなくて韓国人が実際に並ぶ明洞(+徒歩圏)の老舗と華僑中華、10軒を選びました。コムタン、ソルロンタン、カルグクス、冷麺、トンカツ——韓食の老舗と、大使館そばの華僑中華をバランスよく。営業時間と値段は公開情報ベースなので、行く前にサッと再確認してくださいね。
| # | 店 | 種類 | 看板 | 業歴・特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 明洞餃子(ミョンドンギョジャ) | カルグクス・餃子 | カルグクス、餃子、(夏)豆乳麺 | 1966年〜、ミシュラン・ビブグルマン |
| 2 | 河東館(ハドンガン) | 韓牛コムタン | コムタン・特コムタン | 1939年〜、午前営業の老舗 |
| 3 | 味成屋(ミソンオク) | ソルロンタン | ソルロンタン、スユク | 1966年〜、早朝営業 |
| 4 | 明洞咸興麺屋(ミョンドンハムンミョノク) | 咸興冷麺 | 会冷麺、水冷麺 | 1978年〜、ソウル「老舗店」 |
| 5 | 明洞おばあさんククス | カルグクス・粉食 | ハルモニククス、キンパの天ぷら | 路地のコスパ老舗 |
| 6 | 明洞トンカツ | 洋食トンカツ | ロースカツ、ヒレカツ | 1983年〜、正統・洋食(キョンヤンシク) |
| 7 | 百済参鶏湯(ペクチェサムゲタン) | 参鶏湯 | 参鶏湯、烏骨鶏湯 | 1971年〜、明洞の定番 |
| 8 | 開化(ケファ) | 華僑中華 | チャジャンミョン、三鮮チャンポン | 華僑老舗、明洞2街 |
| 9 | 安東荘(アンドンジャン) | 華僑中華 | 牡蠣チャンポン、カンチャジャン | 1948年〜、牡蠣チャンポン発祥(乙支路) |
| 10 | 五九飯店(オグバンジョム) | 華僑中華 | 焼き餃子、チャジャンミョン | 1953年〜、華僑老舗(乙支路) |
選定基準:ダイニングコード・Naverプレイスの地元評判、老舗・華僑中華の比重、観光客向け商圏との距離。9・10番(安東荘・五九飯店)は厳密には乙支路3街だが、明洞から歩いて行ける華僑中華ベルトなので併せて収めた。
1. 明洞餃子(ミョンドンギョジャ)——にんにくキムチと濃厚カルグクス
明洞の老舗といえば、まずここ。1966年から続いて、いまもミシュラン・ビブグルマンに選ばれ続けている店です。濃い鶏だしに手打ちのカルグクスを泳がせて、挽き肉のトッピングと——これが名物——にんにくガツンのキムチを添える。これが看板ですね。餃子(マンドゥ)も一緒に頼むのが王道で、夏にはとろっと濃厚な豆乳麺(コングクス)が季節の主役。観光客も多いけど、回転が速いからサッと入れるし、韓国人もいまなお通い続ける、大通り系老舗の稀有な存在です。
明洞10ギル29 · 10:30–21:30(旧正月・秋夕当日休) · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
2. 河東館(ハドンガン)——澄みきった韓牛コムタンの、揺るがない基準
1939年に水下洞(スハドン)で始まり、その後明洞へ移ってきた、ソウルのコムタンの象徴のような店です。メニューはほぼ澄んだ韓牛(ハヌ)コムタンただひとつ。ご飯はあらかじめスープの中に入って出てきます。「ミン(ご飯少なめ)」「ノンドゥン(ご飯と肉を半々)」みたいな昔ながらの注文隠語が今も通じるあたり、老舗の風格。朝に開けてその日の材料が尽きたら昼過ぎには閉まるので、行くなら午前中——できれば昼前が安全です。
明洞9ギル12 · 午前〜午後(売り切れ次第終了)、日曜休 · 営業時間は訪問前に確認を 📍 Naverマップで開く
3. 味成屋(ミソンオク)——夜明けから開く、ソルロンタンの老舗
1966年からずっと同じ場所で暖簾を守り続けるソルロンタンの店。メニューは**ソルロンタンとスユク(茹で肉)**だけ——その潔さが、澄んで優しいスープの味に表れています。夜明け前から開いているので、飲み明けの客や早朝から働く近所の会社員でひっきりなし。観光で行くというより、明洞で働く人たちの朝・昼の食堂——そんな空気の店です。
明洞キル25-11 · 早朝〜夜 · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
4. 明洞咸興麺屋(ミョンドンハムンミョノク)——穏やかな咸興式冷麺の老舗
1978年開業、ソウル市の「オレガゲ(老舗店)」にも選ばれている咸興(ハムン)冷麺の老舗です。看板は会冷麺(フェネンミョン)——コシのある麺の上に、味付けしたエイの刺身がのる。辛さで攻めるタイプじゃなくて、やさしく澄んだ味わいなのが咸興式らしい。コシの強い麺はハサミで切ってくれるのでご安心を。夏はもちろん混みますが、観光客より冷麺をよく知る韓国人の常連が多い。そういう店です。
明洞10ギル35-19 · 昼〜夕、日曜休 · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
5. 明洞おばあさんククス ——路地裏のコスパ麺・粉食の砦
明洞の裏路地にひっそりある、激安の麺と粉食(プンシク)の店。カルグクス、ビビン麺、豆腐麺に、自家製で揚げたての**キンパの天ぷら(ワンキンマリ)**を添える——これが常連のお決まりです。派手さはゼロ。でも観光地価格とはまったく無縁の良心価格で、ひとりでもサクッと入れるから、近所の会社員や学生でいつもにぎわってる。「明洞にもこの値段の店があるんだ」って、ちょっと感動するかも。
明洞9ギル17-3付近(乙支路入口駅5番出口方面) · 早朝〜夜 · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
6. 明洞トンカツ ——正統派・洋食トンカツ、1983年から
1983年から続く、韓国式洋食(キョンヤンシク)のトンカツ専門店です。薄く伸ばして揚げる日本風「どんき」スタイルじゃなくて、厚めに切ってソースをたっぷりかける、韓国旧来の正統派ロースカツ&ヒレカツが看板。1階のオープンキッチンカウンターで揚げたてを直接受け取る、そのライブ感も楽しい。昔ながらの洋食トンカツを懐かしむ韓国人客でいつも順番待ち。予約不可の現場勝負なので、食事のピークはちょっと外すのがコツです。
明洞3ギル8 · 昼〜夜(週末はブレイクタイムあり) · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
7. 百済参鶏湯(ペクチェサムゲタン)——明洞の参鶏湯といえば
1971年創業、いまは2代目が継ぐ参鶏湯(サムゲタン)の老舗。看板は国産の若鶏を高麗人参や漢方の素材とじっくり炊いた澄んで深いスープ。自家製キムチと人参酒が付いてくるのも嬉しい。外国人にも有名だけど、観光地の薄い参鶏湯とは一線を画す品質で、韓国人の根強い常連も多い。より滋養に振り切った**烏骨鶏湯(オゴルゲタン)**も、ここならでは。
明洞8ギル8-10 · 午前〜夜 · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
8. 開化(ケファ)——明洞2街、華僑中華の顔
明洞の入り口にある路地の2階。テレビ(ソン・シギョンの『食べるでしょう』)で一気に有名になりましたが、もともと地元では鍋振りの香りが強くて味つけは控えめ、火加減で食べさせる正統派として通っていた店です。チャジャンミョン、カンチャジャン、三鮮チャンポン——基本の三種がしっかりしてる。肉の唐揚げ(タンスユク)も昔ながらの華僑式。大使館そばの華僑商圏の味を、いちばん気軽に体験できる一軒です。
明洞2街(南大門路52-5) · 昼〜夜(ブレイク・休みは訪問前に確認) · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
9. 安東荘(アンドンジャン)——牡蠣チャンポン発祥の店(乙支路、徒歩圏)
1948年開業、華僑3代の老舗で、なんと韓国の牡蠣チャンポン(クルチャンポン)発祥とされる店なんです。冬になると、澄んで滋味あふれる牡蠣チャンポンを目当てに常連客でびっしり。カンチャジャンにも、昔ながらの華僑の手の味が残っています。明洞から乙支路3街方面へ歩いて10分ほどなので、明洞の華僑中華めぐりに自然に組み込める距離感。ひとりでも入りやすい、昔ながらの町中華です。
乙支路124(乙支路3街) · 昼〜夜 · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
10. 五九飯店(オグバンジョム)——焼き餃子の名店(乙支路、徒歩圏)
1953年から続く華僑中華の老舗。屋号の「五九(オグ)」が示すように、とにかく古い。看板は外カリッ、中ジュワッの焼き餃子。チャジャンミョンやチャンポンといった基本メニューにも、華僑ならではの手の跡がちゃんと感じられる。昔のままの趣が残る店内も含めて、老舗好きの韓国人がひっきりなしに訪れます。安東荘とあわせて、明洞〜乙支路の華僑中華ベルトを締めくくるのにふさわしい一軒。
乙支路3街(乙支路3街駅付近) · 営業時間は訪問前に確認を · 値段は公開情報ベース 📍 Naverマップで開く
明洞を地元流に食べ歩くなら——おすすめの回り方
10軒全部はもちろん無理なので、好みに合わせて1〜2軒をつなぐのが現実的です。
スープ老舗コース:早めのお昼を河東館(コムタン)か味成屋(ソルロンタン)で → 午後は明洞餃子(カルグクス・餃子)。コムタン系は朝に開けて売り切れ次第終了なので、とにかく早く動くのが勝負。
華僑中華コース:明洞2街の開化でチャジャンミョンとチャンポン → 乙支路3街方面へ歩いて安東荘(牡蠣チャンポン)→ 五九飯店(焼き餃子)へ。大使館そばの華僑商圏を徒歩でつなぐ、明洞ならではの動線です。
夏・滋養コース:明洞咸興麺屋の会冷麺で涼をとるか、百済参鶏湯でしっかり滋養補給。冷麺も参鶏湯も繁忙期は混むので、12〜13時のドンピシャは外したほうが無難。
ちょっとしたコツ:焼肉気分だとしても、大通りの客引きサムギョプサルより、値段が明確なスープ老舗か中華を選んだほうが明洞ではずっと安全です。注文前にメニューの値段と「1人前」の基準をチラッと確認する——それだけで、ぼったくりの大半は回避できますから。
データと基準(2026年7月)
明洞の歴史(泥峴→本町→商業1番地)と華僑商圏の形成(1882年の清軍駐屯以降)、韓国人減少・外国人観光中心への再編の流れは、報道・ソウル市の資料を総合したものです。店ごとの創業年・営業時間・値段は公開情報(ダイニングコード・Naver Place・報道)に基づき、店の事情で変わることがあります。とくにコムタン・ソルロンタンの老舗は売り切れ次第早じまいするので、訪問前に確認を。
出典
- 泥峴から本町へ — 明洞の歴史 — アジア経済
- 外国人観光中心への再編・韓国人減少・空室率 — ザ・スクープ
- 明洞商圏の回復・外国人観光客 — 京郷新聞
- チャジャンミョンの歴史・明洞/小公洞の華僑タウン(1882年清軍駐屯) — ソウル市
- 明洞餃子 — ミシュランガイド · ダイニングコード
- 河東館 — ダイニングコード
- 味成屋 — ダイニングコード
- 明洞咸興麺屋 — ダイニングコード
- 明洞おばあさんククス — ダイニングコード
- 明洞トンカツ — ダイニングコード
- 百済参鶏湯 — ダイニングコード
- 開化 — ダイニングコード · 食神
- 安東荘 — ダイニングコード
- 五九飯店 — ブルーリボン · エスクァイア(華僑中華の老舗)
日本からの読者向けメモ(2026年8月)
明洞の屋台は1品₩4,000〜8,000(約450〜900円)と、韓国の物価感覚では観光地プレミアム価格。地元の人が通う店は路地裏と地下にあるので、本記事の「地元目線」リストをそのまま辿るのがおすすめです。