まず結論から

  • 2026年3月16日、釜山国際映画祭(BIFF)が国際映画製作者連盟(FIAPF)の「Aリスト」映画祭17か所に選ばれました。カンヌ・ベルリン・ベネチアと同じリストで、アジアでは上海・東京・ゴアと並ぶ4つのうちの1つです。
  • 背景にあるのは2025年(第30回)のメインコンペ新設。最高賞「釜山アワード大賞」の受賞作は、第99回アカデミー賞から国際長編映画賞の出品資格を得ます。アジアの映画祭では唯一です。
  • Aリスト1年目の2026年、上映の観客数は11年ぶりに20万人を突破し、関連イベントを含む総観客数は27万7,027人でした(映画祭の集計を伝える報道より)。
  • 2027年に行くなら、日程発表(例年夏の終わり)と前売り開始を早めにチェック。チケットは以前より確実に取りにくくなっています。

10月15日の夜、釜山・センタムシティの映画の殿堂(Busan Cinema Center)。チャン・イーモウ率いる審査員団が、イランのマジッド・マジディ監督をステージに呼びました。賞金5,000万ウォン。そしてもう一つ、以前の釜山国際映画祭には渡せなかったもの――アカデミー賞への扉です。

30年間、釜山は「アジア最大の映画祭」でありながら、いつも但し書きが付いていました。カンヌやベネチアのようなメインコンペのある映画祭ではなく、アジア映画を集めて見せるショーケースだ、と。2026年、その但し書きが外れました。この記事では「Aリスト」が正確に何を意味するのか、なぜ今なのか、来年の釜山を計画する映画ファンにとって何が変わるのかを整理します。チケット予約・会場・字幕といった実践情報は釜山国際映画祭ガイドにまとめています。


「Aリスト映画祭」とは正確には何ですか?

国際映画製作者連盟(FIAPF)が、最も影響力の大きい映画祭に与える公式の格付けです。FIAPFは1933年創設、31か国38の製作者団体を代表する組織で、信頼できる映画祭かどうかを公認してきました。

ややこしいのには理由があります。映画業界では昔から「A級映画祭」という言葉が使われてきましたが、FIAPFは20年近く「A」の格付けを公式には使っていませんでした。代わりに映画祭を4つのカテゴリーに分けて公認していたのです。2026年3月、FIAPFは2007年以来最大の改革でこのカテゴリーを廃止し、公認映画祭を一つのリストにまとめたうえで、その中で最も影響力の大きいところに「A」を復活させました。

📋 FIAPFの映画祭公認制度、何が変わった?(2026年3月の改革)

区分改革前改革後(2026〜)
分類コンペティティブ/専門コンペ/ノンコンペ/ドキュメンタリー・短編の4カテゴリー公認映画祭の単一リスト(29か国49映画祭)
「A」の表記公式には使わない(業界の慣用語)上位17映画祭に公式付与
評価方法カテゴリーごとの要件を満たすか2年分のデータで4分野を評価
評価分野—作品選定、業界連携・活動、報道・広報、上映・観客

評価基準を見ると、何を測ったのかがわかります。応募作品の数と海外作品の割合、業界関係者や記者の来場数、観客数と座席の埋まり具合。つまり「映画業界がこの映画祭を本当に重要だと思っているか」を数字で確かめたわけです。ジャンルや形式は問わないので、アニメーション映画祭(アヌシー)、短編映画祭(クレルモン=フェラン)、ノンコンペの映画祭(トロント)もAリストに入りました。一方、サンダンス、テルライド、BFIロンドン、エディンバラは今回の公認リストに入っていません。

Aリスト17映画祭はどこ?

🌍 FIAPF「Aリスト」映画祭17か所(2026年3月発表、開催時期は例年の目安)

映画祭国例年の開催時期メモ
カンヌフランス5月アカデミー指定6映画祭の一つ
ベルリンドイツ2月アカデミー指定6映画祭の一つ
ベネチアイタリア8〜9月アカデミー指定6映画祭の一つ
ロカルノスイス8月
サン・セバスティアンスペイン9月
アヌシーフランス6月アニメーション
クレルモン=フェランフランス2月短編
釜山韓国9〜10月アカデミー指定6映画祭のうちアジア唯一
トロントカナダ9月ノンコンペ、アカデミー指定6映画祭の一つ
マル・デル・プラタアルゼンチン11月
上海中国6月
カイロエジプト11月
ゴア(IFFI)インド11月
東京日本10〜11月
ワルシャワポーランド10月
カルロヴィ・ヴァリチェコ7月
タリン・ブラックナイトエストニア11月

東京国際映画祭と同じリストに並んだ、と言えば日本の読者にはイメージしやすいかもしれません。実は釜山とFIAPFの縁は古く、第1回の翌年の1997年には韓国の映画祭として初めてFIAPFの公認を受け、2018年からはFIAPFの映画祭委員会のメンバーも務めています。公認自体は昔からのこと。「A」は今回が初めて、というのがポイントです。

なぜ2026年だったのですか?

釜山が2025年に初めてメインコンペを設けたからです。30年間、釜山の賞はアジアの新人監督に贈るニュー・カレンツ賞が中心でした。大作は「招いて見せる」もので、競い合うものではなかったのです。

1996
第1回。翌1997年に韓国初のFIAPF公認
2025
第30回、メインコンペと「釜山アワード」を新設
2026.3.16
FIAPF「Aリスト」17映画祭に選定
6映画祭
最高賞受賞作が単独でアカデミー国際長編映画賞に出品できる映画祭(アジアは釜山だけ)

コンペを始めてわずか1年で、二つの出来事が続きました。

  1. 3月16日、FIAPFの「Aリスト」選定。チョン・ハンソク執行委員長は「急速に高まった国際的な力を示す結果」と語りました。
  2. 5月、アカデミー賞の規定変更。アカデミーは第99回から国際長編映画賞の規定を改め、各国1本の公式出品作とは別に、指定6映画祭の最高賞受賞作も審査対象にできるようにしました。その6つがカンヌ、ベルリン、ベネチア、サンダンス、トロント、そして釜山です。

背景:アカデミー賞の規定、正確にはこうです

釜山アワード大賞を取ってもアカデミー賞のノミネートになるわけではありません。国の代表選考とは別に国際長編映画賞に出品できる資格が得られるということで、劇場公開などアカデミーのほかの条件は同じく満たす必要があります。それでも意味は大きく、自国で代表作に選ばれにくい映画――たとえば表現の自由が制限された国の映画――にもう一つ道ができた、と評価されています。ノミネートも今後は国名ではなく作品名で発表されます。


Aリスト1年目、2026年の釜山はどうだった?

数字を見る限り「ルネサンス」という言葉も大げさではありませんでした。第31回釜山国際映画祭(10月6〜15日)の総括報道をまとめるとこうなります。

🎬 第31回釜山国際映画祭の総括(2026年10月15日閉幕、映画祭発表を伝える報道より)

項目数字
上映の観客数200,043人 ― 2015年以来はじめて20万人突破
総観客数(関連イベント含む)277,027人 ― 前年より約4万人増
釜山の劇場での上映作品315本(ワールドプレミア94本)
アジアコンテンツ&フィルムマーケット来場者30,484人
釜山アワード大賞の賞金5,000万ウォン

運営の工夫も効きました。今年は開幕を水曜から火曜に1日前倒しして週末までの上映期間を延ばし、観客が集中する木〜日曜は1日の上映回数を4回から5回に増やしました。チョン・ハンソク執行委員長は、ほとんどの上映が完売したと話しています。

受賞したのは

コンペの名前は釜山アワード。チャン・イーモウを委員長とする7人の審査員団が満場一致で大賞を選びました。

🏆 2026年 釜山アワード 主な受賞(シネ21・コリアタイムズ報道より)

賞作品監督・俳優(国)
大賞『Midday Meal』(韓国題〈빵과 책〉)マジッド・マジディ(イラン)
審査員特別賞『My Mother』エディ・チャヒョノ(インドネシア)
監督賞『To Be Ordinary』リー・ユンチャン(台湾)
俳優賞(共同)韓国題〈처음 만난 외로움〉/〈사토코는 언제나〉ジョウ・シュン/ヒメノ・カシュン
ニュー・カレンツ賞韓国題〈어둠 속의 새들〉シャシャンク・ワリア

開幕式には「今年のアジア映画人賞」を受けたミシェル・ヨーをはじめ、アルフォンソ・キュアロン、マギー・ギレンホール、シャルロット・ゲンズブール、ファン・ビンビン、そして是枝裕和監督が登場しました。キュアロンは『ゼロ・グラビティ』上映後に観客と直接語り合い、俳優が観客と向き合う「アクターズ・ハウス」にはキム・ゴウン、リュ・スンリョン、シン・ミナ、チュ・ジフンらが出演。開幕から最初の5日間だけで野外舞台あいさつ・マスタークラス・オープントークなど公式プログラムの参加者が5万人を超え、前年の映画祭全期間のイベント参加者数をすでに上回りました(コリアタイムズ)。

まとめると:Aリスト選定は釜山が急に変わったという意味ではありません。30年かけて積み上げた観客・業界・作品選定の力が、コンペという最後のピースで公式に認められた、というほうが近いでしょう。そして1年目の数字は、その評価がすぐに観客側にも効いたことを示しています。

映画ファンにとって何が変わる?

良くなるのは「観られる作品と会える人」、厳しくなるのは「チケット争奪」です。

🎞️
初上映が増える
アカデミー賞への道ができたことで、アジアの監督が新作のワールドプレミアに釜山を選ぶ理由が大きくなりました。2026年だけで94本です。
⭐
ゲストがより豪華に
コンペのある映画祭には審査員とコンペ作品のチームが必ず来ます。チャン・イーモウ、キュアロン、是枝監督が同じ年に集まった理由です。
🎟️
予約はより激戦に
ほとんどの上映が完売したのがAリスト1年目でした。話題作と週末夜の回は、販売開始直後に売り切れると思っておくのが安全です。
🗓️
週末が長くなる
2026年のように火曜開幕・木〜日曜1日5回上映が続くなら、最初の週末にいちばん多くの作品をまとめて観られます。

実用メモ:2027年の釜山を狙うなら

  • まず日程から。2026年10月時点で2027年の日程は未定です。釜山は毎年日程が動いてきました(2023年10月4〜13日、2025年9月17〜26日、2026年10月6〜15日)。9月中旬〜10月中旬の10日間を仮押さえしておきましょう。
  • アカウントは早めに。チケットは公式サイト(biff.kr、英語あり)で販売され、アカウントは毎年メール認証で新しく登録する必要があります。2026年は一般上映の予約が開幕の約2週間前(9月21日)に始まりました。
  • 宿は日程発表の直後に。メイン会場の映画の殿堂はセンタムシティ(地下鉄2号線センタムシティ駅)にあります。海雲台(ヘウンデ)・センタムシティが最も便利で、次点は広安里(クァンアルリ)・水営(スヨン)方面です。
  • 完売でもあきらめない。会期中はキャンセル・払い戻しのチケットがオンラインと現地チケット売り場に出続けます。コツは釜山国際映画祭ガイドにまとめています。
  • コンペ作品から印を付けて。いまの釜山でいちばん注目されるのは釜山アワードのコンペ作品。翌年のアカデミー国際長編映画賞レースを一足先に観るようなものです。

📍 Naverマップで開く ― 映画の殿堂

釜山の前に、ソウルで予習

初めての韓国なら、映画祭の前後にソウルで韓国映画を味わっておくのもおすすめです。韓国の人が映画館で本当に観た作品は韓国歴代興行ランキングに、そのロケ地はソウルの映画ロケ地とソウルの韓国ドラマロケ地にまとめています。ソウル駅から釜山まではKTXで約2時間半です。


最後にひとつ。「Aリスト」という響きは華やかですが、釜山国際映画祭のいちばんの魅力は変わっていません。1万ウォンのチケット1枚で、世界初上映の作品を監督と同じ劇場で観て、終わったらそのまま監督に質問できること。カンヌで一般の観客がそれをするのは簡単ではありません。変わったのは、そのチケットを狙う人が増えたことだけ。だから来年は、少し早めに動きましょう。