いま、つらい気持ちを抱えている方へ
この記事は韓国社会の心の健康を統計で取り上げています。もし今とても苦しいなら、記事を読むより先に誰かに連絡してください。韓国では109(自殺予防相談電話、24時間)、1577-0199(精神健康危機相談、24時間)ですぐに話を聞いてもらえます。韓国語が難しければ1577-1366(ダヌリコールセンター、13言語)に通訳を頼んでください。命に関わる緊急時は119です。韓国以外にいる場合は、その国の相談窓口や緊急番号に連絡してください。
まず結論から
- 2025年の韓国の自殺率は人口10万人あたり27.8人(14,144人)で3年ぶりに下がりましたが、OECD標準人口で年齢調整すると24.9人で、依然として加盟国1位です。OECD平均(10.9人)の約2.3倍にあたります(国家データ処)。
- 最も気がかりな変化は10代です。10代の自殺率は2025年に唯一増加して統計開始以来の最高となり、10代から40代まで死因の1位が自殺です。
- 心の不調を抱える人は増えていますが、治療につながる割合は低いままです。うつ病の受診者数は5年で約36%増え、成人の4人に1人以上が生涯に一度は精神的な問題を経験するという調査もあります。
- 韓国で助けが必要なときは109(自殺予防)、1577-0199(精神健康の危機)、通訳が必要なら1577-1366です。
ソウルを旅していると、この街はいつも忙しそうに見えます。夜遅くまで明かりがともる塾街、始発に乗り込む会社員、行列のできるスイーツ店にきらびやかなショッピングモール。けれど韓国の人たちの間で長く語られてきた話には、その裏側もあります。「OECD自殺率1位」「燃え尽き」「ヘル朝鮮」。韓国を訪れた外国人の友人が、いちばん遠慮がちに聞いてくる質問でもあります。韓国って、本当にそんなに生きづらい国なの?
この記事は、その問いに感情ではなく公式統計で答えてみようという試みです。数字の多くは韓国の国家データ処(旧・統計庁)、保健福祉部、国立精神健康センター、健康保険審査評価院が公表したもので、調査ごとに基準年が違うため、表ごとに年を添えました。個人の事例や手段についての話は扱いません。
韓国の自殺率は本当にOECDで一番高いの?
はい。2025年時点でもOECD加盟国の中で最も高い水準です。ただし数字を読むときは二つを区別する必要があります。韓国国内で使われる粗死亡率(実際の人口が基準)と、国同士を比べるために年齢構成をそろえたOECD標準化自殺率です。
韓国は2位のリトアニアより6.8人、OECD平均より約2.3倍高くなっています。
長期の推移を見ると、韓国の自殺率は2011年に人口10万人あたり31.7人でピークを迎えたあと下がり、最近は再び上下を繰り返しています。
男女差も大きいです。2025年の男性の自殺率は人口10万人あたり39.7人、女性は16.0人で、男性が約2.5倍高くなっています。ただし10代では女性の自殺率のほうが高く、20代から男性が上回ります。
最もリスクが高い年代はどこ?
「死因に占める割合」で見ると若い世代、「人口あたりの割合」で見ると高齢男性です。二つの数字が指す方向が違うため、韓国の自殺の問題は一つの原因では説明しにくいのです。
- 10代:2025年の10代の自殺率は人口10万人あたり8.6人で、前年より7.5%増えました。全年代の中で唯一の増加で、2015年(4.2人)の2倍を超え、1983年の統計開始以来最も高い数字です。
- 40代:40代の自殺率は34.3人で、2024年(36.2人)に次いで過去2番目に高く、2年連続で40代の死因1位です。
- 高齢男性:割合は小さく見えても、人口あたりでは最も高い層です。2024年の80歳以上男性の自殺率は人口10万人あたり107.7人で、同年代女性(24.1人)の約4.5倍、全体平均の約3.7倍でした。
韓国の人たちの心の状態は、数字で見るとどうなの?
つらいと感じている人は多く、治療を受けている人は少ない。韓国のメンタルヘルス統計をひと言でまとめるとこうなります。
🧠 韓国人のメンタルヘルス主要指標(調査ごとに基準年が異なります)
| 指標 | 数値 | 出典(年) |
|---|---|---|
| 精神障害の生涯有病率 | 27.8% | 精神健康実態調査(2021) |
| うつ病性障害の1年有病率 | 1.7% | 精神健康実態調査(2021) |
| 不安障害の1年有病率 | 3.1% | 精神健康実態調査(2021) |
| うつ病性障害のある人のうち1年以内に治療・サービスを利用 | 28.2% | 精神健康実態調査(2021) |
| 過去1年に強いストレスを経験 | 46.3%(2022年は36%) | 国立精神健康センター(2024) |
| 数日以上続く憂うつ感を経験 | 40.2%(2022年は30%) | 国立精神健康センター(2024) |
| うつ病受診者のうち20代 | 20万6,629人(18.2%、年代別で最多) | 健康保険審査評価院(2025) |
数字がばらばらに見えるのには理由があります。診断基準で厳密に測った「うつ病性障害」(1.7%)と、自分で「数日以上憂うつだった」と答えた割合(40.2%)は、測っている対象が違います。うつ病の受診者が増えたことも、必ずしも悪いサインとは限りません。精神科の敷居が下がり、以前なら我慢していた人が病院に来るようになったという見方もあります。
まだ高い敷居と偏見
2024年の国立精神健康センターの調査では、精神的な問題が起きたときに助けを求めた相手は家族・親戚(49.4%)、医療関係者(44.2%)、友人(41%)の順でした。「精神疾患は誰でもかかりうる」には90%以上が同意した一方で、「自分が精神疾患にかかったら、友人の一部は離れていくだろう」という回答も50.7%と、2022年(39.4%)より増えました。「精神疾患のある人はより危険だ」という考えも64.6%ありました。韓国では精神科の受診歴が就職や保険で不利になるという心配が長く続いてきたことも、敷居を高くしている理由に挙げられます。
火病(ファビョン)、韓国語でしか呼ばない病
火病(ファビョン)は、悔しさや怒りを長く押し殺して我慢することで起こると考えられている症状です。火に病、文字どおり「胸の内に火がついた病」。胸のつかえ、こみ上げるほてり、不眠、頻繁なため息といった身体症状が特徴です。アメリカ精神医学会の診断マニュアルDSM-IVに、韓国特有の文化結合症候群として掲載されたことで知られています。伝統的に中年以降の女性に多いとされ、実際の診療ではうつ病や不安障害と一緒に見られることが多いようです。
なぜ韓国はこんなに生きづらいの?
原因は一つではありません。政府の報告書や研究者が共通して挙げる背景を、数字と一緒に整理するとこうなります。以下の指標がそのまま自殺の原因だという意味ではなく、韓国社会のプレッシャーがどこに集中しているかを示す参考資料として読んでください。
📊 韓国社会のプレッシャーを示す指標
| 分野 | 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 生活満足度 | OECD38か国中の順位 | 33位(6.04点、OECD平均6.50点) | 国家データ処「国民の生活の質2025」 |
| 幸福 | 世界幸福度報告2026 | 67位(6.040点) | World Happiness Report |
| 高齢者の貧困 | 66歳以上の相対的貧困率 | 39.8%(10人に4人) | 国家データ処「国民の生活の質2025」 |
| 仕事 | 年間平均労働時間(2025年) | 1,833時間(OECD平均より97時間長く、6番目に長い) | OECD資料を引用した報道 |
| 人とのつながり | 社会団体への参加率(2024年) | 52.3%(前年より5.9ポイント減) | 国家データ処「国民の生活の質2025」 |
- 受験と就職:10代・20代の競争のプレッシャーは、韓国で最もよく挙げられる背景です。2024年の若者実態調査で、ほとんど家にこもっている若者が孤立した最大の理由として挙げたのも「就職の難しさ」(32.8%)でした。
- 老後の貧困と孤独:66歳以上の10人に4人が相対的貧困の状態にあるという数字は、高齢男性の高い自殺率とともによく取り上げられます。
- 我慢する文化とスティグマ:つらいと口に出しにくく、精神科に通うことを隠す空気が、助けを求めるのを遅らせます。
- 急激な変化:一世代のうちに貧しい国から豊かな国へと変わる間に、家族の形や地域のつながりが急速に変わったという説明もあります。
孤独死と引きこもりの若者、数字で見るとどのくらい?
孤独死は年々増えており、ほとんど家から出ない若者も増えています。韓国にはこの現象を指す言葉がわざわざあるほどです。
- 孤独死(コドクサ):家族や友人とのつながりが途切れたまま一人で亡くなり、時間がたってから見つかる死。保健福祉部の実態調査では、2024年の孤独死者は3,924人で、前年(3,661人)より7.2%増えました。男性が81.7%と女性の5倍を超え、50〜60代が60%前後を占めます。発見場所はワンルーム・オフィステルの割合が2020年の4.0%から2024年の19.6%へと大きく増えました。
- 孤立・引きこもりの若者:2024年の「青年の生活実態調査」(国務調整室)では、若者全体の5.2%が「ほとんど家にいる状態」と答え、まったく外出しない若者も0.9%いました。2年前の調査から2倍以上に増えた数字です。
若いほど孤独死に占める自殺の割合が高いことは、一人暮らしの若者の孤立が単なるライフスタイルの問題ではないというサインとして受け止められています。
韓国はこの問題をどう変えようとしているの?
相談窓口を一つにまとめ、カウンセリング費用を支援し、敷居を下げる方向に動いています。
- 自殺予防相談電話109に統合(2024年1月):1393など複数の番号に分かれていた相談電話を、3桁の番号一つにまとめました。月平均の相談件数は2023年の18,304件から2024年に26,843件、2025年上半期には28,416件に増え、2025年10月には2か所目の相談センターを開設して相談員の定員を140人に増やしました。
- 全国民マインド投資支援事業(2024年7月〜):うつや不安などでカウンセリングが必要と紹介された人に、1対1の専門的な心理カウンセリング8回分をバウチャーで支援します。1回あたりの単価は7万〜8万ウォンで、自己負担は所得に応じて0〜30%です。外国人が対象に含まれるかどうかは、自治体の案内を確認する必要があります。
- 若い世代の変化:20代のうつ病受診者が最も多いという統計は、逆に言えば、若い世代が精神科を「恥ずかしい場所」ではなく「行くべき場所」と考え始めたということでもあります。
韓国で心がつらいとき、外国人はどこに相談できる?
緊急なら119、相談は109と1577-0199、韓国語が難しければ1577-1366に通訳を頼んでください。旅行者でも留学生でも、韓国に滞在している間は以下の番号を利用できます。
📞 韓国で使える緊急・相談窓口(2026年10月時点)
| 番号 | 内容 | 受付 | 言語 |
|---|---|---|---|
| 119 | 救急車・緊急事態 | 24時間 | 韓国語(通訳につなげる場合あり) |
| 112 | 警察、差し迫った危険 | 24時間 | 韓国語(通訳につなげる場合あり) |
| 109 | 自殺予防相談電話 | 24時間 | 主に韓国語 |
| 1577-0199 | 精神健康危機相談(地域の精神健康福祉センターと連携) | 24時間 | 主に韓国語 |
| 1577-1366 | ダヌリコールセンター(多文化家族・移住者向け相談、三者通訳) | 24時間 | 13言語 |
実用メモ:韓国で精神科を受診するには
- 街の精神健康医学科のクリニックは予約なしで診てくれるところも多く、韓国の健康保険に加入していれば診療費の負担は大きくありません。保険のない短期旅行者は保険適用外の料金になるので、受診前に費用を確認しましょう。
- 英語での診療が必要なら、大きな大学病院の国際診療センターで予約を手伝ってもらう方法があります。精神健康医学科で英語の診療ができるかは病院によって違うので、先に確認してください。
- 海外旅行保険にメンタルヘルスの診療が含まれるか、約款を確認しておきましょう。
- 韓国人の友人がつらそうに見えたら、解決策より「最近どう?」のひと言が先です。危なそうだと感じたら一人で抱え込まず、一緒に109に電話してください。
数字の向こう側にあるもの
この記事の数字は重いものですが、韓国を「憂うつな国」と決めつけるためのものではありません。同じ統計の中には、減った数字もあります。2025年の自殺率は3年ぶりに下がり、生涯で自殺を考えたことがある人の割合も5年で3.8ポイント減りました。相談電話をかける人が増えたということは、言えずにいた人たちが声を上げ始めたということでもあります。ソウルの明るい街並みとこれらの数字は同じ街の二つの顔で、その両方を知ることが、この国を少しだけ正確に理解する方法なのだと思います。
韓国社会の別の一面が気になる方は、韓国MZ世代の新語とトレンドコリア2027のキーワード解説もあわせてどうぞ。いまの韓国の人たちが仕事や暮らしをどう見ているのか、別の角度から見えてきます。
もう一度、助けが必要なときは
韓国:109(自殺予防相談、24時間)・1577-0199(精神健康危機相談、24時間)・1577-1366(ダヌリコールセンター、13言語)・緊急119。韓国以外にいる場合は、お住まいの国の相談窓口や緊急番号に連絡してください。
データと出典
- 自殺統計:国家データ処「2025年 死亡原因統計」ブリーフィング(政策ブリーフィング、2026.09.22)、MTN(2026.09.23)、アイニュース24、アジア経済
- 80歳以上の男女別自殺率(2024年):世界日報(2026.03.09)
- 精神健康実態調査2021:Prevalence of Mental Disorders and Associated Factors in Korean Adults: National Mental Health Survey of Korea 2021
- 国立精神健康センター2024年調査:コリアタイムズ(2024.07.04)
- うつ病の受診者数:ニューシス(健康保険審査評価院の統計、2026.08.01)
- 自殺実態調査2023:保健福祉部 報道資料(政策ブリーフィング)
- 孤独死:ニューシス(保健福祉部「2024年度 孤独死実態調査」、2025.11.27)、孤立・引きこもりの若者:ノーカットニュース(2025.07.16)
- 生活の質・貧困:コリア中央デイリー(国家データ処「国民の生活の質2025」)、世界幸福度報告2026の順位:Atlas & Bootsのまとめ、労働時間:ヘラルド経済(OECD資料)
- 109の相談状況:ヘラルド経済(2025.10)、マインド投資支援事業:ソウル市メディアハブ、慶北毎日
- 外国人のメンタルヘルス利用案内:seoulstart、火病:Wikipedia — Hwa-Byung