梨泰院の話をするなら、まず2つの数字を並べる必要がある。

ひとつ — 2025年第3四半期、梨泰院の小規模店舗の空室率は 3.9% だった。ソウル都心平均の5.1%より低い。2024年第3四半期の13.9%からわずか1年で下がってきた数字だ。

ふたつ — 2025年10月31日午後9時、梨泰院の人出は 17,800人 だった。同じ時刻の弘大は 110,000人 だった。

商圏は生き返り、ハロウィンは戻ってこなかった。この2つの文が矛盾に見えるなら、梨泰院で何が起きたのかをまだ正確に知らないということだ。

まず結論から

  • 梨泰院は回復したのではなく再編された。数字上、空室率はソウル上位で健全だ。
  • 蘇らせたのはクラブ街ではなく、漢江鎮駅側の漢南洞ファッション商圏だ。代替ではなく、けん引だった。
  • 梨泰院は事故の前から崩れていた。2018年の米軍基地移転 → 2019年の空室率26.5% → コロナ → 事故の4連打。
  • ハロウィン需要は弘大へ恒久的に移ったと見られる。2025年基準で弘大は梨泰院の6倍を超える。
  • 2025年12月、観光特区が漢江鎮駅まで拡大された。リウム美術館とブルースクエアが特区に編入された。
  • 今の梨泰院の強みはクラブではなく、世界グルメ文化通り、イスラム通り、リウムのほうだ。

まず順序を正そう — 事故が始まりではなかった

梨泰院の話で最も間違えられるポイントだ。

📉 事故以前の梨泰院の空室率

時点空室率出来事
2018年約20%2018年6月、在韓米軍の龍山基地が平沢へ移転
2019年第1四半期24.3%
2019年第2四半期26.5%全国の主要商圏の中で最上位の空室率

当時の韓国鑑定院担当者の分析は明確だった — 「米軍基地の移転で定住消費層が抜けたのが大きい。」

梨泰院が梨泰院であった理由のかなりの部分は、龍山の米軍基地だった。その基地が平沢へ移ると、毎晩路地を埋めていた消費層が消え、その席をジェントリフィケーションが引き継ぎ、2020年にコロナが来て、2022年に事故が来た。

米軍撤退(2018)→ ジェントリフィケーション → コロナ(2020)→ 事故(2022)。梨泰院は4連打を食らった。事故だけを原因にすると、前の3つを見落とす。そうなると、なぜ今の梨泰院が以前に戻らないのかも説明できない。

数字で見る4年

売上回復カーブ — 2023年までしか公表されていない

ソウル市が事故直前の週(2022年10月第4週)の売上を100として測定したデータがある。

📊 梨泰院1洞の売上・流動人口回復率(事故直前の週 = 100)

時点売上回復率流動人口回復率
2022年11月約30%
2023年2月52%71.9%
2023年3月98.2%72.6%
2023年4月93.4%74.9%
2023年5月76.3%75.6%

3〜4月の90%台をそのまま信じてはいけない

龍山区が2023年1月と3月に額面20%割引の地域商品券を計326億ウォン分発行し、5月までに180億ウォンが使われた。3〜4月の数値はこの効果で膨らんだもので、5月の76.3%が実態に近い。

そしてソウル市は2023年6月以降、同じ基準のデータを公表していない。以降は空室率で見るしかない。

空室率 — ここで反転が起きる

13.9% → 3.9%
梨泰院の小規模店舗空室率(2024年第3四半期 → 2025年第3四半期)
19.9% → 13.6%
梨泰院の中大型店舗空室率(同期間)
5.1%
比較基準 — 2025年第3四半期のソウル都心平均・小規模空室率

2025年第3四半期の梨泰院の小規模店舗空室率3.9%は、ソウル都心平均より低い。 中大型の13.6%も清潭(23.6%)や東大門(14.3%)より良好だ。2019年の26.5%と比べれば、まったく別の街だ。

訪問客も増えた。龍山区の集計では、梨泰院観光特区の国内訪問客は2024年の125万人から2025年1〜11月に130万人、外国人が24万人から25万人を超えた。外国人の内訳は中国・日本・香港・台湾が半分以上だ。


では、何が梨泰院を蘇らせたのか

答えはクラブではない。漢江鎮駅側のファッション商圏だ。

6号線の漢江鎮駅から梨泰院駅方向へ続くライン、いわゆる「コム・デ・ギャルソン通り」にブランドが集まった。

🖤
コム・デ・ギャルソン漢南
この通りに名前を付けた店。漢南洞ファッション商圏の基準点。
👜
グッチ・ガオク
韓屋のコンセプトを取り入れた旗艦店。海外ラグジュアリーブランドの漢南洞進出の事例。
🧥
レクト・ポッタリー・エミス
国内ブランドの旗艦店が漢南洞に集まった。トーンワーク、マリテ・フランソワ・ジルボーもここにある。
🇯🇵
Bshop
日本のセレクトショップが2025年5月、世界初の出店先として漢南洞を選んだ。

コム・デ・ギャルソン通り一帯の外食売上は年平均15%増えた。2025年第4四半期基準の不動産コンサルティング会社の評価で、ソウルで空室率が最も低い商圏として聖水・明洞・漢南が挙げられた。

「漢南洞が梨泰院を代替した?」 — 代替ではなくけん引だ

漢南洞が梨泰院を押しのけたのではなく、漢南洞に集まった流動が梨泰院駅方向へ流れ下り、梨泰院のメインが生き返った構造だ。2つの街が1つの軸に結びついたと見るのが正確だ。

行政もそれを認めた。2025年12月26日のソウル市告示で梨泰院観光特区が漢江鎮駅一帯まで拡大された。総面積39万㎡、梨泰院路入口から漢南洞住民センターまで約1.4km。リウム美術館とブルースクエアが特区内に入った。

つまり2026年の梨泰院は、もはや「梨泰院駅クラブ街」ではなく、「梨泰院駅〜漢江鎮駅軸」だ。


エリア別の現状 — サイクルがそれぞれ違う

梨泰院周辺のサブ商圏は、それぞれ別の時間割で動いてきた。ひとくくりに語ると全部外れる。

🏘️ サブ商圏の現状

エリア状態今はどうか
漢南洞(漢江鎮駅)✅ 明確な上昇ソウル空室率最低圏。ファッション・美術館・高級飲食。家賃上昇上位
世界グルメ文化通り✅ 営業活発30カ国以上の飲食店。毎晩テラス席まで満席
ウサダンロのイスラム通り⚠️ 指標未確認ソウル中央モスクを中心にハラル店舗が約40軒密集
経理団キル⚠️ 部分回復、性格転換空室は依然あり、流動人口は全盛期に届かず。大型ブランドではなく独立書店・ワインバー・アトリエ中心に再編
解放村⚠️ 人は増え、売上は減った店舗190軒、流動人口は増加。しかし店舗当たりの月平均売上は496万ウォンと前年比で減少
アンティーク家具通り🔴 確認不可2020年以降、漢南ニュータウンの余波で衰退と報道。現在の状態は未確認

Dミュージアムは漢南洞にない

英語のガイドがいまだに漢南洞の名所として紹介するDミュージアムは、2021年に城東区聖水洞(ソウルの森)へ移転した。漢南洞にある美術館はリウムだ。

解放村の数字は特に興味深い。 人は増えたのに、店当たりの売上は減った。曜日別の売上が土曜日の17.2%に集中している — 週末の特定時間帯にだけ人が来る目的訪問型商圏という意味だ。地下鉄駅から遠く、坂道なので、通りすがりに立ち寄る街ではない。

経理団キルは2017年前後の家賃急騰で崩れた後、まだ戻っていないが、性格が変わりつつある。創業者の年齢層が20〜30代から40〜50代へ移り、大型ブランドの代わりに独立書店とアトリエが入ってくる。完全回復ではなく、「静かな路地」へのリポジショニングだ。


戻らなかったもの — ハロウィン

17,800
2025年10月31日午後9時の梨泰院の人出(事故前比で約30%)
110,000
同時刻の弘大(事故前比157%)
6倍以上
弘大:梨泰院の人出比率

数字だけを見れば結論は明らかだ。ハロウィン需要が消えたのではなく、弘大へ移った。 そしてその移動は戻る気配がない。

🎃 年別のハロウィン対応

何があったか
2023(1周忌)全国的な自粛。大型マート3社・コンビニ4社・テーマパークがハロウィンのマーケティングを中止し、感謝祭・オクトーバーフェストにテーマを切り替えた
2024(2周忌)梨泰院の祭りの雰囲気は消滅。6号線の梨泰院駅が午後11時から両方向通過運転、一時は駅が閉鎖。警察3,012人を配置
2025(3周忌)梨泰院駅は午後11時から通過運転。事故の路地は午後10時20分ごろから警察が立ち入りを規制。 コスチューム着用者はほぼおらず、いても大半は外国人観光客

ある商圏分析専門家の2025年11月のコメントが、今の梨泰院の心情を正確に要約している — 「消費はかなり回復したが、ハロウィンをあからさまに楽しむにはまだ慎重な雰囲気。」

10月末に梨泰院を訪れる予定なら

「混んでいる」ではなく「規制と緊張がある」が正確な表現だ。地下鉄が通過運転になることがあり、特定の路地は立ち入りが制限されることがある。ハロウィンの雰囲気を求めるなら弘大か聖水へ行くのが正解で、梨泰院の食と街を見に行くなら、その週だけ避ければいい。


事故の路地 — 旅行者が知っておくべきこと

まず事実関係から正確に。2022年10月29日夜、龍山区梨泰院洞のハミルトンホテル横の狭い下り坂の路地で雑踏事故が起き、159人が死亡した。 裁判所はこれを自然災害ではなく、注意義務を尽くせば防げた人災だと判断した。

10·29 記憶と安全の道

2023年10月、1周忌の直前に造成された。遺族協議会と市民対策委員会が約1年かけて準備し、龍山区庁が協力した。

何があるか

  • 梨泰院駅1番出口から約40m地点に標識石
  • 路地入口の地面に「私たちにはまだ覚えておくべき名前があります」という文言の刻印
  • 1番目の案内板は事故の経緯を14カ国語で説明する — 外国人訪問者が直接読める
  • 2・3番目の案内板は写真家・グラフィックデザイナーの作品を2カ月ごとに交換する「ウィンドウギャラリー」形式
  • 市民が残した付箋がそのまま残っている

ふるまい方について

  • 平時は通行できる。閉鎖された空間ではなく、路地の両側は通常営業中の商店街だ。
  • ハロウィンなど大混雑時には警察が立ち入りを規制する。
  • 14カ国語の案内板が設置されているので、読んで理解することは造成の趣旨にかなう。
  • ただし遺族と市民が管理する追悼空間だ。観光写真の背景に使うのに適した場所ではない。

追悼空間「星たちの家」は梨泰院ではなく、鍾路区社稷路130(3号線景福宮駅の近く)にある。2024年11月に現在地へ移転開所した。開館時間は訪問前に確認が必要だ。

まだ終わっていない

旅行情報とは直接関係ないが、この街を理解するには知っておく価値がある。

事故から4年近くたっても、公式の真相究明は終わっていない。 梨泰院の人々がハロウィンに慎重なのには、こうした背景もある。


人混みの安全 — 今使えるツール

行く前に混雑度を確認できる

  • ソウル市リアルタイム都市データ(data.seoul.go.kr/SeoulRtd)— 観光特区・地下鉄駅・公園などソウル120カ所のリアルタイム混雑度
  • 「ソウルリアルタイム混雑度」アプリ — 余裕 / 普通 / やや混雑 / 混雑 / 非常に混雑の5段階。推定人口と周辺道路の状況まで出る
  • ハロウィン期間中は行政安全部が全国の重点管理地域を指定し、ソウル市は弘大・梨泰院などに重点管理区域を置く。自治体の人波感知CCTVでリアルタイム情報を共有する
  • 年末年始(クリスマス〜1月初旬)にも明洞・梨泰院・聖水・弘大・江南駅など9カ所で特別安全管理が実施される

今の梨泰院で実際に見るべきもの

まず出口から整理

🚇 目的地別の出口

駅・出口目的地
6号線 梨泰院駅 1番出口ハミルトンホテル、世界グルメ文化通り10·29 記憶と安全の道(40m)、主要ラウンジバー
6号線 梨泰院駅 3番出口イスラム通り(ウサダンロ10キル)、ソウル中央モスク — 消防署を左に見て右折、上り坂を約300m
6号線 漢江鎮駅リウム美術館、ブルースクエア、コム・デ・ギャルソン通りのファッション店
6号線 緑莎坪駅経理団キル入口、解放村方面。梨泰院駅まで約580m

見どころ

🖼️
リウム美術館
漢江鎮駅。2025年12月に観光特区に編入された。ホームページで観覧日の2週間前から予約が必要。
🕌
ソウル中央モスク
1976年5月に開院した韓国初のモスク。周辺のウサダンロ10キルにハラル食堂・精肉店・書店など約40店舗が密集している。
🌍
世界グルメ文化通り
ハミルトンホテル裏の梨泰院路27ガキル。30カ国以上の飲食店。「車のない通り」460mを商人会が自主管理する。夜がピーク。
👗
コム・デ・ギャルソン通り
漢江鎮駅〜梨泰院駅ライン。今の梨泰院商圏を実際に引っ張っている軸だ。昼に歩く通り。

梨泰院の1日が時間帯で分化していると知っておくと、動線を組みやすい — 昼は漢南洞のカフェ・ファッション通り、夜は世界グルメ文化通り。

宿泊 — 梨泰院と漢南、どちらに

🏨 比較

梨泰院漢南洞
性格夜の飲食・バー・クラブ、異国的多様性ファッション・美術館・高級飲食、昼中心
騒音週末の夜はかなりあり比較的静か
価格帯中低価格から幅広く高い
注意点漢南3区域の撤去・着工現場に隣接する区間あり
最寄り駅梨泰院駅漢江鎮駅

漢南洞は2026年現在、大型工事中だ

漢南3区域(THE H漢南)は5,988世帯規模で、ソウル最大の再開発だ。約8,800世帯の移転を終え、2025年2月に撤去に着手、2026年3月時点で構造物の解体が79.5%、2029年の入居予定だ。一部区間では騒音・ほこり・通行制限がある可能性がある。

梨泰院のすぐ隣の国連軍司令部(UNC)用地(梨泰院洞22-34番地一帯、44,935㎡)にも、アパート420戸+オフィステル723室+ホテル+販売・文化施設が入る11兆ウォン規模の開発が進んでいる。完成時期は報道によって異なる。


では、梨泰院はどんな街になったのか

安くて異国的な飲み屋街としての梨泰院は、構造的に縮小しつつある。 米軍が去った場所を取り戻す方法はなく、国連軍司令部用地の開発が終われば、高級化はもう一段進むだろう。

代わりに今の梨泰院にあるのはこうだ。世界で最も密度の高い30カ国の食の路地が1つ、韓国初のモスクとその周辺のハラル店舗、ソウルで最も強いファッションフラッグシップライン、そしてリウム美術館。

クラブ街を期待して行けば失望し、歩いて回る街として期待して行けば、ソウルで最も密度の高い半日になる。

データと出典

  • 韓国不動産院 商業用不動産賃貸動向調査(梨泰院商圏)— 韓国経済(2025-11-02)再引用
  • トゥデー新聞(2019-10-31)— 事故以前の空室率と米軍基地移転
  • 京郷新聞(2023-06-11)— ソウル市の売上・流動人口回復率、地域商品券の効果
  • 韓国日報(2025-11-01)— 2025年ハロウィンの梨泰院・弘大の人出集計
  • 韓国経済(2025-10-31)— 2025年ハロウィンの現場、世界グルメ文化通りの状態
  • 市政日報(2026-01-08)— 梨泰院観光特区拡大の告示、面積・範囲
  • イーデイリー・マーケットイン(2025-05)・韓国繊維新聞(2025-12-23)— 漢南洞商圏、ブランド出店、空室率比較
  • 時事プライム — 経理団キル・解放村の商圏分析
  • 京郷新聞(2023-10-26)・毎日新聞 — 10·29 記憶と安全の道の造成
  • ソウル新聞・京郷新聞(2025-08-28)— 1審判決、控訴審中断
  • 京郷新聞(2026-08-10)・ニューシス(2026-07-28)— 特別調査委員会の現状
  • ソウル市リアルタイム都市データ・ソウル市安全管理対策の報道資料
  • 金融経済新聞・ニューシス(2025-03-06)— 漢南3区域、国連軍司令部用地の開発