安山(アンサン)は干潟を埋め立ててできた街です。1970年代末、南陽湾の干潟が半月工業団地のために埋め立てられると、半農半漁の小さな村だった元谷洞(ウォンゴクドン)は、まず埋め立てで移転させられた住民の団地に、続いて工場労働者の街になりました。1990年代に韓国人労働者が工場を去ると、その穴を外国人労働者が埋めます。京畿道の広報誌によると、いま元谷洞の住民およそ2万人のうち約95%が50〜60か国から来た移住者です。
ここへ来る理由はそれに尽きます。安山はきれいな観光都市ではありません。それでも安山駅から5分歩けば、ここで暮らす人たちのために作られたウズベクの羊肉串、ネパールのタンドリーチキン、ベトナムのフォー、インドネシアのナシゴレンが食べられます。さらに西へ進むと、街はぶどう畑と干潟、そして世界最大の潮力発電所がある島、大阜島(テブド)で終わります。
まず結論から
- 場所:ソウルの南西、黄海沿い。地下鉄4号線でソウル駅から安山駅まで27駅。
- 向いている人:食べ歩き好き、移民の暮らす韓国に興味がある人。大阜島まで行けば干潟と夕日も。
- 必見:元谷洞の多文化通り、始華湖潮力発電所、そして干潮時だけ現れる炭島港〜ヌエ島の海の道。
- 必食:ウズベクのシャシリクとサムサ、ネパールのタンドリー、インドネシアのナシゴレン、大阜島のバジラク(アサリ)カルグクス。
ソウルから安山への行き方は?
**いちばん簡単なのは地下鉄4号線。ソウル駅や舎堂(サダン)から乗り換えなしで、元谷洞の最寄りである安山駅まで行けます。**大阜島は別の話です。島は始華防潮堤の先にあり、車がないとバス待ちに時間を取られます。
🚇 安山へのアクセス(所要時間は駅数からの目安。出発前にNaverマップで確認を)
| ルート | 路線・手段 | 所要時間の目安 | メモ |
|---|---|---|---|
| ソウル駅 → 安山駅 | 4号線 | 約1時間 | 27駅。元谷洞は安山駅が最寄り |
| 舎堂 → 安山駅 | 4号線 | 約45分 | 20駅。水仁・盆唐線も安山駅に停車 |
| 安山駅 → 烏耳島(オイド)駅 | 4号線 | 10分弱 | 3駅。烏耳島は始華防潮堤の始興側の端 |
| 大阜島内の移動 | タクシー、車、安山「トクバス」 | — | トクバスは大阜島内の呼び出し型ミニバス。07:00〜21:30、1,450ウォン、アプリで予約 |
汝矣島と安山を結ぶ新路線「新安山線」は2025年開業予定でしたが、2025年4月の光明でのトンネル崩落事故で遅れています。マネートゥデイの報道では2026年10月時点で開業時期は未定なので、4号線を前提に計画しましょう。
安山は何で有名?
**韓国最大の移民タウン、画家・金弘道(キム・ホンド)、そして始華湖の3つです。**京畿道の広報誌によると、元谷洞には約1,400の事業所があり、そのうち飲食店は約230軒、訪れる人は年間約350万人。2009年には国内唯一の다문화마을특구 多文化村特区に指定され、2025年11月には中小ベンチャー企業部が指定を2027年まで延長しました。
干潟の村から「韓国の中の小さなアジア」へ
- 1970年代末まで — 元谷洞はなだらかな丘に囲まれた半農半漁の小村。
- 1970年代末 — 半月工業団地のため南陽湾の干潟を埋め立て。元谷は移転住民の団地に、続いて韓国人工場労働者の街に。
- 1988年以降 — 外国人労働者が来はじめる。1997年のIMF危機で多くの企業が去り、空いた部屋を移住者が埋める。
- 2009年 — 多文化村特区に指定。同じ年、京畿道が多文化飲食街を指定。
- 2025年 — 指定を2027年まで延長。アジア経済によると、安山市は通りを毎日11:00〜20:00の車両通行禁止(歩行者天国)として運営する方針。
街のあちこちで見かけるもうひとつの名前が단원 檀園(タンウォン)。庶民の暮らしを描いた風俗画で知られる朝鮮時代の画家・金弘道(1745年生まれ)の号です。安山市によると、彼は7〜8歳から文人画家・姜世晃(カン・セファン)のもとで絵を学んでおり、そのため安山生まれと考えられています。安山の檀園区はこの号にちなんだ名前です。
安山は、2014年4月16日のセウォル号沈没事故で約250人の生徒を失った檀園高校がある街でもあります。追悼式は学校近くの花郎遊園地で行われてきました。観光地ではなく、静かに向き合う場所です。
安山の見どころは?
**昼は元谷洞、午後から夕方は大阜島。**2日目がある人や海に興味がない人は、葦湿地と金弘道美術館で市内側を回れます。
元谷洞 多文化通り — 安山市の観光案内では中心は「タムナファ(多文化)キル16」一帯で、中国、ロシア、ベトナム、インド、ウズベキスタン、インドネシア、スリランカなど90軒以上の料理店とアジア食材マートが集まっています。大通りだけでなく路地にも入ってみてください。外国語看板の携帯ショップや送金所、銀行が並び、テーマパークではなく生活の場だとわかります。外国人住民支援本部(釜谷路〈プブロ〉43)3階の安山市世界文化体験館には約50か国・約1,400点の資料が展示され、各国の民族衣装を試着できます。通りの上にある元谷公園では、週末に各国の食や文化のイベントが開かれます。
始華湖潮力発電所 — 1994年に完成した始華防潮堤は湾を湖に変えましたが、湖はたちまちひどく汚染されました。その解決策が、10基のタービンで海水を再び湖に通すこと。2011年8月に完成し、254MWの出力でフランスのランス潮力発電所(240MW)を抜いて世界最大になりました。安山市によると年間発電量は約5億5,000万kWhで、50万人が1年間に使う量に相当します。月(タル)展望台からは湖と黄海、大阜島が見渡せ、夕暮れどきが特におすすめ。下の文化館では潮力発電の仕組みを学べます。
炭島(タンド)港とヌエ島の海の道 — 大阜島の西端で、1日2回、約1.2kmの干潟の道が現れ、灯台展望台のある無人島ヌエ島(蚕島)まで歩けます。安山市のアドバイスは、潮見表を確認し、潮が引き始めて30分〜1時間後に出発し、早めに引き返すこと。潮は一気に満ちてきます。全長91kmの海岸トレイル「大阜ヘソルキル」もここを通り、北側の1コースは安山12景のひとつ、九峰島(クボンド)の夕日展望台へ続きます。
安山葦湿地 — 始華湖に流れ込む川の汚れた水を浄化するために造られ、いまではクロツラヘラサギやチョウゲンボウなど100種以上の鳥が暮らす葦原に。1.3kmの木道があり、環境生態館は無料で2階に望遠鏡もあります。ただし公共交通では行きにくく、湿地の公式サイトによると最寄りのバス停から徒歩約30分。安山駅か上緑水(サンノクス)駅からタクシーを使いましょう。
金弘道美術館と金弘道の道 — 美術館(常緑区忠場路422)は1・2館で企画展、3館で金弘道関連の展示を行っています。安山市は金弘道の作品を8点所蔵しており、そのひとつ《貢院春暁図》は朝鮮戦争中に釜山で米兵が買って持ち帰り、60年以上行方不明だったものが2019年に安山へ戻りました。美術館から約2kmの「金弘道の道」が、露積峰公園の人工滝、檀園彫刻公園、星湖博物館を経て安山植物園まで続きます。
🎫 観光情報(安山市・K-water・各施設公式サイト、2026年10月)
| 施設 | 時間 | 休み | メモ |
|---|---|---|---|
| 始華 月展望台 | 毎日10:00〜20:00(入場19:30まで) | — | 展望階にカフェ |
| 始華ナレ潮力文化館 | 火〜土 10:00〜17:00 | 日・月、1月1日、旧正月と秋夕の当日 | 自由見学、約40分 |
| 炭島〜ヌエ島 海の道 | 干潮時、1日2回 | 満潮時は海に沈む | 出発前に潮見表を確認 |
| 安山葦湿地 | 3〜10月 10:00〜18:00、11〜2月 10:00〜16:30 | 月曜 | 環境生態館は無料 |
| 金弘道美術館 | 10:00〜18:00(入場17:30まで) | 月、1月1日、旧正月と秋夕の当日 | 火〜日にドーセント解説あり |
| 大阜島観光案内所 | 10:00〜18:00(11〜2月は17:00まで) | — | 大阜黄金路1531。ベビーカーや傘の貸出あり |
安山で地元の人が通う店は?
**元谷洞の客の多くは料理人と同じ国の人たち。それ以上の品質チェックはありません。**以下はいずれも2025〜2026年の報道やレビューで確認できた店です。メニューは韓国語と母国語だけのことも多いので、写真を指さして注文すれば大丈夫です。
フルシェダ・サマルカンド(タムナファ2キル3) — 客の多くがウズベク人というウズベク料理店。羊肉の샤슬릭 シャシリク串、パイ生地の羊肉サムサ、丸いナン(ノン)、にんじんサラダを。レビューでは量の多さや持ち帰り用のウズベク風はちみつケーキが話題で、酒類は置いていないという声もあります。ソウルの中央アジア料理は東大門中央アジア通りのガイドへ。
カンティプル(タムナファ2キル28 2階) — ネパール人が営む店で、2009年の政府資料ですでに「2007年から市場通りで営業」と紹介されています。2023年の安山市の多文化グルメツアーでも立ち寄り先となり、参加者は炭火焼きのタンドリーチキンとラッシーを味わいました。カレーとナン、2人以上のセットメニューもあります。
ベトナム故郷食堂(中央大路443) — 駅近くの大通りにある、小さなベトナム料理チェーンの本店。濃いスープの牛肉フォー、ブンチャー、バインセオ、バインミー。注文はキオスク式です。
ジャカルタ — 安山駅から徒歩3分ほどのインドネシア料理店で、2026年2月に京仁日報が紹介。記者はエビせん付きのナシゴレン、サテ・アヤム、ガドガド、アヤム・バカール(焼き鳥)、タフ・イシ(揚げ豆腐の野菜詰め)とアボカドジュースを食べています。卓上に自家製サンバルが4種類あり、ご飯はセルフサービス。
オットギ手打ち麺(元谷路23) — 中国式の手延べ麺の店。2025年1月の京畿道広報誌は、五穀の蒸しパンに野菜炒めを添える一品、鍋包肉(グオバオロウ)、食べ放題の火鍋も勧めています。ソウルの大林延辺グルメ通りを知っている人なら、同じ中国東北の味の世界です。
マリーナベーカリー — 同じ2025年1月の記事で紹介されたロシア風ケーキとペストリーの店。ミルク感が強く甘め。人気はナポレオンケーキとはちみつケーキで、メレンゲやくるみ菓子も。
大阜島・パンアモリ — 島で夕食をとるなら、安山市が指定飲食街のひとつに挙げる、防潮堤の大阜島側にある「パンアモリ飲食文化通り」へ。ここで頼みたいのが바지락칼국수 バジラクカルグクス、地元のアサリでだしをとった手打ちうどんのような麺です。ソウルのカルグクス事情はカルグクス老舗ガイドで。
🍽️ 安山の地元グルメ一覧(報道・京畿道広報誌・最近のレビュー、2025〜2026年)
| 店 | 料理 | 注文したいもの | エリア |
|---|---|---|---|
| フルシェダ・サマルカンド | ウズベク | 羊肉シャシリク、サムサ、ノン | 元谷洞 タムナファ2キル |
| カンティプル | ネパール・インド | タンドリーチキン、カレーとナン、ラッシー | 元谷洞 タムナファ2キル |
| ベトナム故郷食堂 | ベトナム | 牛肉フォー、ブンチャー、バインセオ | 中央大路、安山駅そば |
| ジャカルタ | インドネシア | ナシゴレン、サテ・アヤム、ガドガド | 安山駅近く |
| オットギ手打ち麺 | 中国 | 手延べ麺、鍋包肉 | 元谷路 |
| マリーナベーカリー | ロシア菓子 | ナポレオンケーキ、はちみつケーキ | 元谷洞 |
| パンアモリ飲食文化通り | 韓国の海鮮 | バジラクカルグクス | 大阜島 |
ムスリムの旅行者へ
元谷洞には安山のモスク「安山イスラミックセンター」があり(2024年時点のイマームはインドネシア出身)、周辺にはハラール精肉店や南アジア・中央アジアの食材店が集まっています。ただし上で紹介した店は、私たちが確認した資料ではハラール認証をうたっていないので、注文前に確認を。金曜礼拝の時間は大変混み合います。ソウルについてはハラールレストランガイドとソウル中央モスクのガイドもどうぞ。
安山を1日で回るモデルコースは?
- 10:30 — 安山駅。元谷洞へ歩き、まず世界文化体験館(釜谷路43、3階)で各国の衣装を試着。
- 11:30 — 早めの昼食はフルシェダ・サマルカンドかジャカルタで。マリーナベーカリーのはちみつケーキはおやつ用に。
- 13:30 — タクシーかバスで大阜島方面へ。始華防潮堤を渡り、潮力発電所の月展望台に上る。
- 15:00 — 炭島港。潮が引いていれば1.2kmの海の道でヌエ島を往復。時間には常に注意を。
- 17:00 — 夕日をヌエ島、炭島、または九峰島の展望台から。
- 18:30 — パンアモリでバジラクカルグクス。その後タクシーかバスで烏耳島駅(4号線)へ出てソウルに戻る。
季節と旅のヒント
- 大阜島は潮次第。ヌエ島歩きは干潮に合わせて。午後が満潮の日は葦湿地と金弘道美術館に切り替えましょう。
- 8月下旬〜9月中旬は大阜島のぶどうの季節。島じゅうの直売所で買えます。島のワイナリー「グランコトー」は同じぶどうでワインを造っています。
- 秋は葦湿地が黄金色に。
- グルメツアー:安山市の多文化グルメツアー(10,000ウォン、韓国語のストーリーテラー同行、1回10人まで)は2026年は4〜8月に実施。次のシーズンは安山市の観光サイトで確認を。
- 週末は多文化通りがいちばんにぎわい、元谷公園では食や文化のイベントもよく開かれます。
あわせて読みたい
安山は京畿道31市郡ガイドのひとつです。お隣は、烏耳島と防潮堤の反対側がある始興、華城、そして同じ4号線沿いの安養。ソウルの移民コミュニティの日常は「外国人グルメ通り」のその先へで。大阜島へ車で行くなら外国人のためのレンタカーガイドから。
データと出典
- 京畿道『私の京畿道』vol.187(2025年1月)元谷洞の歴史・人口、オットギ手打ち麺、マリーナベーカリー、世界文化体験館 — https://www.gg.go.kr/myggd/vol187/vol187_2_3.php
- 安山市文化観光(多文化通り、多文化飲食街、炭島の海の道、大阜ヘソルキル、九峰島、葦湿地、金弘道の物語と道、金弘道美術館、特産品、交通、大阜島観光案内所、2026年多文化グルメツアー) — https://www.ansan.go.kr/tourinfo/main/main.do
- 安山市「始華湖潮力発電所」(安山12景) — https://www.ansan.go.kr/tourinfo/common/cntnts/selectContents.do?cntnts_id=C0001969
- K-water 始華ナレ 文化館観覧案内・月展望台 — https://www.kwater.or.kr/website/tlight/sub02_01_02.do / https://www.kwater.or.kr/website/tlight/sub02_03_01.do
- 安山文化財団 金弘道美術館 — https://www.ansanart.com/main/danwon/index.do
- 安山葦湿地 公式サイト — https://ansanwetland.co.kr/
- Wikipedia「Sihwa Lake Tidal Power Station」 — https://en.wikipedia.org/wiki/Sihwa_Lake_Tidal_Power_Station
- アジア経済(2025年11月19日)特区の2027年までの延長、歩行者天国 — https://view.asiae.co.kr/en/article/2025111911340389552
- ソウル新聞(2023年10月6日)飲食街の区域拡大、204店 — https://m.go.seoul.co.kr/news/2023/10/06/20231006500176
- 京仁日報(2026年2月15日)インドネシア料理店ジャカルタ — https://www.kyeongin.com/article/1759136
- 文化日報(2023年5月)カンティプルでの多文化グルメツアー — https://www.munhwa.com/article/11363093
- 政策ブリーフィング(2009年6月7日)元谷洞とカンティプル — https://www.korea.kr/news/policyNewsView.do?newsId=148682045
- マネートゥデイ(2026年10月8日)新安山線の遅延 — https://www.mt.co.kr/estate/2026/10/08/2026100722544643761
- Dompet Dhuafa(2024年4月6日)安山イスラミックセンター/SeoulStart ハラール情報 — https://www.dompetdhuafa.org/?p=46338 / https://seoulstart.com/directory/halal
- Wikipedia「Sinking of MV Sewol」 — https://en.wikipedia.org/wiki/Sinking_of_MV_Sewol
- 店舗情報:Polleのレビュー(フルシェダ・サマルカンド、カンティプル、ベトナム故郷食堂)、2026年10月閲覧