いま済州には、まったく別のニュースが2つ同時に流れています。1つは「韓国人が済州を離れている」という統計、もう1つは「済州は怖い」という世論です。2つは別の話なのに、ひとまとめにされて広がっています。
この記事ではこの2つを切り分け、数字で確認できることと、確認できないことを整理しました。
まず結論から
- 📉 韓国人観光客は本当に減っています。 2026年7月に済州を訪れた韓国人は96万3000人で、1年前より9万人減。6月(マイナス10万9000人)に続いて2か月連続の減少です。
- ✈️ 最大の原因は治安ではなく航空運賃です。 7月の済州空港国内線の運航便数は前年比156便減り、燃油サーチャージの引き上げも重なりました。
- 🌏 外国人はむしろ増えています。 2026年1〜5月の外国人訪問客は95万5748人(+21.5%)、うち64.2%が中国からです。
- 🚨 2026年8月の騒ぎの正体は、警察による失踪届の虚偽処理です。 観光客を狙った犯罪が増えたという統計はありません。担当警察官は8月25日に逮捕されました。
- 💰 ぼったくりは全体ではなく特定の場所で起きます。 祭りの屋台、海辺のパラソルレンタル、観光地前の食堂。この3か所を避けるだけで、体感する物価が変わります。
数字で見ると、いま済州で何が起きている?
韓国銀行済州本部が2026年8月に発表した実体経済動向が、最も正確な全体像です。 減少は事実で、減っているのは韓国人です。
韓国人観光客は2022年の1390万人をピークに、2025年は1161万人まで減り続けました。2026年上半期は2024年の同時期より6.4%減っています。全体の減少幅が1.3%にとどまったのは、外国人がその穴を一部埋めたからです。
📉 2026年の済州観光客の月別推移(韓国銀行済州本部)
| 時期 | 韓国人 | 外国人 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 5月 | 96万5100人(-7.2%) | — | 国内線の燃油サーチャージ急騰 |
| 6月 | 前年比-10万9000人 | +1万8000人 | 減少に転じる |
| 7月 | 96万3000人(-9万人) | 26万5000人(+6000人) | 2か月連続減、全体は122万8000人 |
| 8月1〜11日 | +4000人 | +1万人 | 小幅の回復傾向 |
注目すべきは最後の行です。 8月の最初の11日間、観光客は前年同期より1万4000人増えました。事件の報道が集中した時期と重なりますが、まだ減少には転じていません。
韓国人はなぜ済州に行かなくなった?
理由は「怖いから」ではなく、ほとんどが「高いから」です。 ネット上で安全の問題が大きくなったのは2026年8月ですが、減少はそれよりずっと前の2023年から続いている流れです。
✈️ 韓国人減少の本当の原因(影響が大きい順)
| 原因 | 何が起きたか | 旅行者への影響 |
|---|---|---|
| 航空運賃 | 中東情勢の不安定で国際原油価格が上昇 → 国内線の燃油サーチャージ引き上げ | 金浦−済州の往復が格安国際線と同水準に |
| 座席供給 | 7月の国内線が156便減、航空会社が国際線に機材を振り向け | 週末・繁忙期の座席確保が難しく |
| 代替の旅行先 | 円安で日本が安くなる | 「済州に行くお金があれば日本」の比較が定着 |
| ぼったくり騒ぎ | 祭りの屋台の値段・海辺のパラソルレンタル料が繰り返し報道 | 価格への信頼低下、再訪意欲の減少 |
| クルーズ | 7月の入港が6便減(乗客約1万1000人減) | 西帰浦の寄港地周辺の商圏が縮小 |
外国人旅行者には逆に働きます
韓国人を遠ざけた原因の多くは国内線の航空運賃と座席です。一方、同じ期間に済州空港の国際線は110便増えました。つまり韓国人にとっては行きにくくなった一方、海外から直行便で来る旅行者にとってはむしろ良くなった区間です。済州はノービザ入国が適用される地域で、対象国の国籍者はビザなしで最大30日滞在できます(済州道内に限る)。
2026年8月、済州で何が起きた?
核心は凶悪犯罪の急増ではなく、警察官1人の失踪届の処理のずさんさです。 事実関係だけを時系列で整理するとこうなります。
🗓️ 2026年 済州の失踪事件・虚偽処理をめぐる経過
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 5月15日 | チャンさん(37)の失踪届を受理。担当の警長が2時間半で「連絡が取れた」と虚偽の連絡をし、処理を終える |
| 7月2日 | 60代男性の失踪届も同様の手口で当日のうちに虚偽処理 |
| 8月22日 | 60代男性が済州市旧左邑で遺体で発見される |
| 8月22〜24日 | 3日の間に済州で失踪者4人が相次いで遺体で発見 |
| 8月24日 | 国会の指摘を受け、警察庁が失踪者・家族に公式謝罪。済州道知事が失踪・危機事案の処理の全面再点検を指示 |
| 8月25日 | 裁判所、担当の警長に逮捕状を発付(職務遺棄、公電磁記録の偽造・行使、偽計公務執行妨害) |
警察は、この警長が2025年3月以降に処理を終えた失踪事件298件の全数調査に着手しました。
ネット上では「済州ボイコット」の声まで出ましたが、「警察を正すべきで、済州全体をボイコットするのはおかしい」「自営業者に何の罪があるのか」という反論の方が優勢でした。観光業界は、まだ実際の予約減少にはつながっていないとみています。
済州道と警察は何を変えている?
2026年8月24日の済州道知事の指示で、次の対策が進んでいます。 旅行者として実感するのは3番と4番です。
- 失踪・危機の通報処理の全面再点検と、担当者の個人判断だけで処理を終えられなくする検証システムの導入
- 国家警察と自治警察の間で、失踪者捜索の情報共有・連携を強化
- 公共CCTV映像の保存期間を延長
- AIベースの沿岸監視システムの拡充 — 海岸線・岩場の事故対応用
- 民・官・警の合同パトロール拡大で安全の死角を縮小
観光分野では、済州道が補正予算28億ウォンを投入し、デジタル観光パス(15億ウォン)、顧客への感謝プロモーション(10億ウォン)、2026島文化祭り(2億8000万ウォン)を進めます。韓国空港公社と文化体育観光部は、首都圏に集中する外国人観光客を分散させるため、仁川−済州の国内線無料航空券プログラムも実施しました。
外国人旅行者が本当に気をつけるべきことは?
済州で危ないのは人より地形です。 ソウルと違い、済州は観光地から5分外れるだけで人気が途絶え、携帯の電波と街灯が一緒に消える区間が珍しくありません。
1人で動くときに守ること
- オルムとオルレ道は決められた登山道だけを。 指定コースを外れると標識も人もありません。真っ昼間でも同じです。
- 日没の2時間前には下山を始めます。 オルムのほとんどに照明がありません。
- 中山間道路の夜間運転は避けます。 街灯のないカーブと霧の区間が続きます。
- 海水浴場は開設期間・監視員の勤務時間内だけに。 済州の沿岸は離岸流がよく発生します。
- 宿に今日行く場所を残してください。 レンタカー旅行なら、目的地を同行者や宿に共有しておきます。
事件・事故を届け出るなら
- 警察112 / 消防・救急119 — どちらの番号も外国語の通訳につながります。
- 1330 — 韓国観光公社の観光通訳案内。24時間多言語対応。通訳が必要な状況で先にかけても大丈夫です。
- 受理証や事件番号を必ず受け取ってください。 2026年8月に問題になったのは、まさに記録がないまま勝手に処理されたケースでした。届け出たという証拠を残す必要があります。
- パスポートを紛失した場合は、自国の大使館・領事館への連絡が別途必要です。済州には一部の国しか領事館を置いていません。
ぼったくりを避けるにはどこに注意?
済州全体が高いのではなく、値段が跳ねる場所は決まっています。 最近実際に問題になった事例を見ると、パターンが見えてきます。
💰 最近問題になった場所と対策
| 危険な場所 | 実際の事例 | 対策 |
|---|---|---|
| 海水浴場の貸し出し施設 | 挟才海水浴場のパラソルレンタルが5万ウォン(駐車込み7万ウォン)→ 住民との再協議で3万ウォンに | 利用前に料金表を撮影、なければ利用しない |
| 祭りの屋台 | 耽羅文化祭などで食事の値段・品質の騒ぎが繰り返し発生 | 祭り会場の外の常設食堂を利用 |
| 観光地前の食堂 | 主要名所の入口通りで価格のばらつき | 300m離れるだけで地元価格まで下がります |
済州道は2026年から、ぼったくり騒ぎが起きた祭りを道の指定祭りから外し、3年間の再選定を制限する制裁を導入しました。実際、耽羅文化祭と典農路王桜祭りが2026年の評価で除外されました。
では、今は行きどき?
韓国人が減っている状況は、海外から来る旅行者にはほとんど有利に働きます。
- 国内線の座席不足は、国際線の直行便で来れば関係ありません。同じ期間に済州空港の国際線は110便増えました。
- 韓国人の減少で、繁忙期の宿・レンタカーの争奪戦が例年より緩和されています。
- 済州道が物価管理と安全対策に予算を投入している局面なので、ぼったくり通報への行政の反応が普段より速いです。
同時に正直に言うと、今回の問題が浮き彫りにしたのは失踪届への対応体制の穴で、改善はまだ進行中です。旅行そのものを延期する理由にはしづらいものの、1人で人里離れた場所を歩く予定なら、上の安全ルールは形だけの文章ではなく、実質的な備えです。
データと出典
- 韓国銀行済州本部「最近の済州地域の実体経済動向」(2026年8月)— ソウル新聞 2026-08-17 報道
- ソウル新聞「失踪事件が相次ぎ『済州行きません』…観光業界、ボイコット運動に神経尖らす」(2026-08-26)
- ニューシス「済州のチャン・ミラン失踪、虚偽処理の警察官を逮捕…逃走・証拠隠滅のおそれ」(2026-08-25)
- Seoul Economic Daily / Travel And Tour World — 2026年1〜5月の済州外国人訪問客統計
- ソウル新聞「ぼったくり騒ぎの祭りにさらに強い不利益…済州道の指定祭りから除外」(2026-02-04)