ソウルには、都心のど真ん中に貞洞(チョンドン)という街があり、北漢山(プカンサン)の斜面には貞陵洞(チョンヌンドン)という街があります。どちらも同じひとつの墓から名前をもらいました。1396年、ひとりの王妃が都の中心に葬られます。ところが13年後、義理の息子がその墓を掘り起こして城壁の外へ移し、陵の石は橋の材料にされてしまいました。都心の街は王妃がかつて眠っていた場所の名を残し、丘の上の街は最後にたどり着いた場所の名を名乗ったというわけです。
いまの貞陵洞は、急な坂道と小川、市場、大学がある静かな住宅街で、海外からの旅行者はほとんど見かけません。食べ物は安くて、古くて、とことんローカルです。
まず結論から
- 場所:都心の北、城北区。牛耳新設軽電鉄「貞陵」駅2番出口から陵まで徒歩約10分。
- 歴史:神徳王后の陵は1396年に城内に築かれ、1409年にここへ移され、1669年に復旧されました。ユネスコ世界遺産「朝鮮王陵」の一部です。
- 何を食べる?:陵の近くでそばムクと手打ちカルグクス、9,000ウォンのマンドゥグク、貞陵市場で白いスンデクッ、そして韓屋の博物館でお茶を。
- 月曜日は避ける:陵が休館で、ボンファ・ムクチプ(봉화묵집)、トドファ(도도화)、市場の軽食店ミルダバン(밀다방)も休みです。
神徳王后の陵はなぜ都の外へ移されたのか?
新しい王が、継母を都に葬っておきたくなかったからです。 康氏の出身である神徳王后は、朝鮮を建国した太祖の二番目の妃でした。1396年に彼女が亡くなると、太祖は完成したばかりの城壁の内側、いまの英国大使館の近くに陵を築かせます。破格の待遇でした。しかし王位を継いだのは、太祖の最初の妃の息子である太宗。太宗は1398年、王位継承をめぐって神徳王后の息子たちと争い、ふたりとも命を落としています。
1409年、太宗は陵を都の外、現在の丘陵地へ移し、規模も小さくしました。ソウル市の歴史資料は、これを朝鮮で初めての王陵移葬と記しています。歴史家の多くは継母への太宗の恨みの表れと見ていますが、その後に起きたことについては異論がありません。
ひとつの陵、ふたつの街、ひとつの橋
- 1396 — 神徳王后が亡くなり、城内に葬られる。旧陵地の周辺は정동 貞洞、つまり「陵(貞陵)のある村」と呼ばれるようになる。
- 1409 — 太宗が陵を城外、現在の城北区へ移す。新しい一帯は정릉동 貞陵洞となる。
- 1410 — 洪水で清渓川の土橋広通橋(クァントンギョ)が流されると、旧陵の石材、彫刻入りの屏風石まで使って石橋に架け替えられる。ソウル施設公団によれば、城内で最大の橋だった。
- 1669 — 顕宗が神徳の王后位を回復し、陵は現在の姿に整えられる。
- 2009 — 貞陵がほかの朝鮮王陵とともにユネスコ世界遺産に登録される(6月30日)。
この物語は両端から歩いてたどれます。彫刻された陵の石は、復元された清渓川の2番目の橋・広通橋の基礎にいまも見えます。詳しくは清渓川の橋めぐり散歩で紹介しています。もとの陵があった場所は貞洞の路地の中。こちらは貞洞の近代史散歩で取り上げています。
貞陵は行く価値がある?
あります。ソウル中心部からいちばん行きやすい朝鮮王陵で、緑の深さもいちばんです。 貞陵駅2番出口からアリラン路19キル116の正門までは約600m。中に入ると、俗世と聖域の境目を示す石橋・禁川橋(クムチョンギョ)があり、これが600年以上前のもの。赤い紅箭門(ホンサルムン)の先にT字形の丁字閣が建ち、その上の斜面に墳墓があります。1409年の降格のせいで、ほかの王陵より小ぶりで飾り気がありません。
陵の裏手には2.5kmの森の散策路がぐるりと続き、夏は眼下の街よりはっきり涼しく感じます。中に売店はないので、水は持参しましょう。
🎫 貞陵の観覧案内(ソウル市・入場料掲示)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開館時間 | 06:00〜18:00(6〜8月は18:30まで、11〜1月は06:30〜17:30) |
| 休館日 | 月曜日 |
| 入場料 | 25〜64歳の大人・7〜64歳の外国人1,000ウォン、25歳未満・65歳以上無料 |
| アクセス | 牛耳新設軽電鉄 貞陵駅2番出口から約600m |
| 散策路 | 陵の裏手を一周する2.5kmの森の道 |
いまの貞陵洞はどんな街?
朝鮮戦争のあと、避難民たちが北漢山の麓の谷沿いにバラックを建て、この一帯の土地利用は長いあいだ保護区域の陵地と複雑に絡み合ってきました。2021年の週刊京郷の特集によると、陵の所有だった土地がのちに払い下げられ、大学教授たちがそこに家を建てました。いまも교수단지 教授団地と呼ばれる一角です。再開発の話が持ち上がったとき、住民たちは少し変わった手を打ちます。2014年から毎年春の週末に、自宅の庭を一般に開放しているのです。第15回の庭園祭は2026年5月8〜9日に開かれました。
作家の朴景利(パク・キョンニ)は、大河小説『土地』を書き始めたころ貞陵洞に住んでいました。旧宅は外から眺めることしかできませんが、ソウル市がその前を通る散策コースを整備しています。
それ以外の日常は、北漢山から流れ下る小川貞陵川(チョンヌンチョン)と、輔国門路(ポグンムンノ)近くに青果の露店や軽食店、スープの店が数ブロック続く貞陵市場に沿って回っています。
貞陵周辺のおすすめグルメ・カフェ
以下の価格と営業時間は、各店のNaver PlaceまたはDiningcodeの掲載情報を2026年10月1日に確認したものです。
ボンファ・ムクチプ(アリラン路19キル46-2) — 陵を歩いたあとのランチならここ。ムクはそばやどんぐりのでんぷんで作るゼリー状の食べ物で、この店ではそば粉のムクを細切りにしてスープに浮かべたり、ヤンニョムで和えたりして出します。素朴で旨みのある一品で、かつては韓国の山村の日常食でした。そばムク、手打ちカルグクス、手作りマンドゥはどれも8,000ウォン、コンジングクス(麺を冷水でしめてからスープに入れる)は11,000ウォン。グループならスユク(ゆで豚)は1時間前に予約が必要です。営業は11:00〜20:00、月曜定休。
ハルモニ・マンドゥグク(アリラン路19キル9-8) — 大きくてやわらかい家庭風のマンドゥを、澄んだ牛骨スープで。9,000ウォンで、薄切りのお餅入りにしても同じ値段です。蒸しマンドゥ一皿も9,000ウォン。文字どおりの「お昼の店」で、11:00〜17:00、日曜定休です。
キチャ・スンデグク(ソルセム路18キル91、貞陵市場) — キチャは「汽車」の意味で、この店のスープは市場の看板メニューです。ここのスンデは、よく見る黒い腸詰めではなく、豆腐が多めの白っぽいタイプ。最近の掲載情報ではスンデクッが10,000ウォン、モツのスープが11,000ウォンでした。地元のブロガーによれば60年ほど続く店だそうですが、創業年は確認できませんでした。営業は毎日09:00〜22:00なので、月曜日でも安心して頼れる一軒です。
トドファ(アリラン路19キル97) — 教授団地の入口にある小さなカフェで、2026年の庭園祭を伝えるソウル市の記事にも名前が出てきます。よもぎラテとモクレン茶は約5,000ウォン、アメリカーノは4,000ウォン。営業は10:00〜18:00、日曜・月曜定休。
チャダム by ギャラリー・ザ・スクエア(貞陵路9キル68) — 韓国の茶文化を伝える小さな博物館、茗園(ミョンウォン)博物館の韓屋「ヘオンホン」の中にある茶房です。済州抹茶は約11,000ウォン、*細雀(セジャク)*の緑茶はポットで約9,000ウォン。営業は12:00〜18:00。陵から歩いて10〜15分ほどで、ソウル市の朴景利散策コースもすぐ近くを通ります。
🍽️ 貞陵のおすすめ、あと7軒(Naver Place/Diningcode、2026年10月)
| 店名 | どんな店 | 価格の目安 | 営業時間/定休日 | 地図 |
|---|---|---|---|---|
| モダン粉食ミルダバン | 貞陵市場のレトロな軽食カウンター | トッポッキ3,500/揚げ物盛り合わせ3,500ウォン | 12:00〜20:30、土・月定休 | 📍 Naverマップで開く |
| 237プラットフォームカフェ(237플랫폼 카페) | テラス席のある市場のカフェ | ラテ5,000/双和茶7,500ウォン | 現地で要確認 | 📍 Naverマップで開く |
| カフェ・ナウアデイズ(카페나우어데이즈) | 陵へ続く路地のケーキカフェ | シュークリームラテ5,500ウォン | 10:00〜19:00、日曜定休 | 📍 Naverマップで開く |
| チャンオセサン(장어세상) | 貞陵路の川ウナギ焼き。主に夜の店 | ウナギのスープ約9,000ウォン | 現地で要確認 | 📍 Naverマップで開く |
| カフェ・グレテ(카페 그레테) | 国民大学へ上る途中の2階建て大型カフェ | アメリカーノ約4,500ウォン | 現地で要確認 | 📍 Naverマップで開く |
| ポリポリ・オクソニ・シゴルパプサン(보리보리옥선이시골밥상) | 麦ごはんにナムルがずらり。登山客の定番ランチ | 麦ごはん定食約11,000ウォン | 11:30〜21:00、月曜定休 | 📍 Naverマップで開く |
| サンジャン・トゥブチョン(산장두부촌) | 輔国門路、北漢山登山口方面の豆腐料理店 | 豆腐キムチ約20,000ウォン | 09:00〜21:00、月曜定休 | 📍 Naverマップで開く |
貞陵を半日で歩くモデルコース
- 10:00 — 貞陵駅2番出口(牛耳新設軽電鉄)。陵の正門まで坂を10分ほど上ります。
- 10:15 — 貞陵。禁川橋を渡って丁字閣と墳墓を見たら、2.5kmの森の散策路を一部歩きます(約1時間)。
- 11:30 — アリラン路19キルを下る。教授団地の入口にあるトドファでコーヒーを。住宅は個人宅なので、声は控えめに。
- 12:15 — ランチ。そばムクならボンファ・ムクチプ、マンドゥグクならハルモニ・マンドゥグク(17:00閉店)。
- 13:30 — お茶はお好みで。10〜15分先、茗園博物館の韓屋にあるチャダムへ。
- 14:30 — 貞陵川沿いに貞陵市場へ(約15分)。ミルダバンでトッポッキ、まだ入るならキチャでスンデクッを。
- 16:00 — 輔国門路を上って国民大学近くのカフェ・グレテへ。そのまま北漢山の登山口まで足を延ばしても。
データと出典
- ソウル市メディアハブ「貞陵の歴史・観覧時間・ユネスコ登録」 — https://mediahub.seoul.go.kr/archives/2000620
- ソウル市メディアハブ「貞陵観覧案内(月曜休館、英国大使館近くの旧陵地)」 — https://mediahub.seoul.go.kr/archives/1278554
- ソウル市メディアハブ「貞洞の地名の由来」 — https://mediahub.seoul.go.kr/archives/2010763
- 韓国民族文化大百科事典(韓国学中央研究院)「貞陵」 — https://encykorea.aks.ac.kr/Article/E0032766
- ソウル施設公団「広通橋」 — https://sisul.or.kr/open_content/cheonggye/intro/assets2.jsp
- ソウル市メディアハブ「貞陵教授団地の庭園祭(2026)」 — https://mediahub.seoul.go.kr/archives/2018133
- ソウル市メディアハブ「朴景利の旧宅と『土地』散策コース」 — https://mediahub.seoul.go.kr/archives/1167412
- 週刊京郷(2021)「貞陵洞の戦後史」 — https://weekly.khan.co.kr/article/202102191441111
- 入場料:貞陵のNaver Place掲載情報。飲食店の価格・営業時間:Naver PlaceおよびDiningcode、2026-10-01閲覧