まず結論から

  • 目上の人が先:いちばん年長の人がスプーンを手に取ってから食べ始め、自分だけ急いで食べ終えない
  • ご飯と汁物はスプーン、おかずは箸。ご飯茶碗は持ち上げず、箸やスプーンをご飯に立てるのは厳禁
  • お酒は両手で注いで、両手で受ける。手酌はせず、目上の人の前では顔を横に向けて飲む
  • 今は取り皿に取り分けて食べるのも、ひとりご飯もごく普通の光景で、会社の飲み会も短くなる傾向。目上の人との席では伝統的なマナーが今も生きています

韓国人のパートナーの両親と初めて食事をする前に、ある友人からこう聞かれたことがあります。「スプーンはいつ手に取ればいいの?お酒は両手で受けるって聞いたけど、グラスはどう持つの?」いい質問です。韓国の食卓のマナーは多くの旅行者が思っている以上に具体的で、日本と似ているようで正反対のルールもあります。そのルーツをたどると、数百年前の朝鮮時代の学者が書いた生活の手引き書にまで行き着きます。

ところがソウルの食堂に入ると、また別の景色が広がっています。チゲを自分の取り皿によそい、タブレットで注文し、ひとりで肉を焼き、会計はアプリで割り勘。このガイドでは、その両方をまとめました。伝統的なルールとその理由、そして今の韓国の食卓で実際に変わったことです。伝統的なマナーについては、国立民俗博物館の『韓国民俗大百科事典』を基準にしています。


韓国ではなぜ目上の人が先に食べる?

韓国の食卓の第一のルールは、いちばん年長の人が最初にスプーンを手に取ること。 『韓国民俗大百科事典』は、目上の人と食事をするときは「目上の人より先に匙と箸を取って食べない。また食べ終わったあとも、目上の人より先に匙と箸を食卓に置かない」と説明しています。食べるペースも速すぎず遅すぎず、ほかの人とだいたい同じころに食べ終えるのが礼儀です。

この考え方はとても古いものです。同じ事典は儒教の経典『礼記』の「およそ礼の始まりは飲食に始まる」という一節を引き、食事のマナーを礼そのものの出発点としてきたと説明しています。1924年の『朝鮮無双新式料理製法』や1939年の『朝鮮料理法』といった近代の料理書も、口をそろえて「目上の人より先に匙を置くのは礼に反する」と書いています。

食事の前とあとのひと言

食べる前は잘 먹겠습니다(チャル モッケッスムニダ)、日本語の「いただきます」に近い言葉。食べ終わったら잘 먹었습니다(チャル モゴッスムニダ)、「ごちそうさまでした」にあたります。駐ノルウェー韓国大使館の韓国マナーの案内にも出てくる表現で、料理を作ってくれた人やごちそうしてくれた人に向けたあいさつです。この2つを言うだけで、食卓の空気がぐっと和みます。


韓国のスプーンと箸の使い分けは?

スプーンはご飯と汁気のある料理に、箸はおかずに使います。 『韓国民俗大百科事典』は「ご飯と、汁のあるキムチ・チゲ・スープはスプーンで食べ、ほかのおかずは箸で食べる」とまとめています。ほかにもいくつかルールがあります。

金属の匙と箸、スプーン中心の食卓

『韓国民俗大百科事典』によると、韓国以外の東アジアでは木や骨で作った箸を使うのが一般的で、中国や日本のスプーンは柄の短い小さな陶製のれんげが主流です。韓国は金属のスプーンと金属の箸を使うため、金属で傷つきやすい漆器ではなく、陶磁器や真鍮の器(ユギ)、ステンレスの器を使ってきました。同じ事典は、韓国人ほどスプーンをよく使う民族はいないとして、汁気の多い料理や早食いの習慣などを理由に挙げています。「パプ ハン スル(ご飯ひとさじ)」の「スル」は、スプーンを指す古い言葉です。

韓国ではなぜご飯茶碗を持たない?

韓国では、ご飯茶碗は食卓に置いたまま、スプーンですくって食べます。 茶碗を手に持って箸で食べる日本とは、はっきり違う点です。理由については、スプーン中心の食べ方だからという説や、熱が伝わりやすい真鍮の器に熱々のご飯を盛ると持てなかったからという説がありますが、これはメディアのインタビューでのシェフの説明で、定説として確かめられた話ではありません。確かなのは、今の韓国の食卓で茶碗を持ち上げて食べると目立つ、ということです。


韓国の食事でやってはいけないことは?

🚫 韓国の食卓で伝統的に避けられてきたことと、その理由

やってはいけないこと理由・根拠
ご飯にスプーンや箸を立てる韓国外交部の在外公館の案内は「死と不運の象徴」と説明。祖先に供えたご飯にスプーンを立てる祭祀の手順(挿匙正箸)を連想させるから、という説明が広く使われている
音を立てて食べる「噛む音や器がぶつかる音を立てずに食べる」(韓国民俗大百科事典)。15世紀の『内訓』にも「音を立てて食べるな」とある
おかずをかき回す欲しいものを一度でつまみ、器の中をかき回さない
食べたいおかずを自分の前に引き寄せるみんなで囲む食卓では、遠くの料理を手元に引き寄せない
おかずの器に箸やスプーンを渡して置く食事中でもしない
げっぷ、つまようじ、水で口をすすぐ食事の前後ともにしない
スプーンを伏せて置く「スプーンを伏せると災いを招く」という俗信がある

祭祀(チェサ)について知りたい方は韓国のチェサ・チャレ(祖先祭祀)ガイドを、ほかの言い伝えは韓国の迷信とタブーをどうぞ。

250年前の学者による食事の心得。 実学者の李徳懋(イ・ドンム)は、1775年に書いた生活の手引き書『士小節』で、麺やスープ、お粥をひと息にすすって音を立てないこと、箸でお膳をたたいたりスプーンで器をこすったりしないこと、人と同じ食卓で食べるときに食べたいものが遠くにあっても手前に引き寄せないことを説きました。『韓国民俗大百科事典』が引用する一節には、こんな文もあります。「サンチュの包みを口に入らないほど大きく包んで食べると、婦人の振る舞いとしてあまり美しくないので、よくよく慎むべし」。もとは女性に向けた戒めですが、今の韓国焼肉店でサンチュを一口サイズに包むお作法と、どこか重なって見えます。

韓国のお酒の席のマナーは?

手酌はしない、目上の人には両手で注いで両手で受ける、目上の人の前では顔を横に向けて飲む。 『韓国民俗大百科事典』の「酒道」の項目と、韓国外交部の在外公館のマナー案内がそろって挙げているルールです。

お酒の作法を教えた儀礼「郷飲酒礼」

韓国にはかつて、お酒の作法を儀礼として教える향음주례(ヒャンウムジュレ/郷飲酒礼)という伝統がありました。地方の共同体で徳のある客人を招き、決められた手順でお酒を酌み交わしながら、年長者を敬い老人をいたわることを学ぶ宴の儀礼で、中国の周の時代に始まったものです。韓国では高麗時代の1136年に郷飲酒礼を行わせたという記録があり、朝鮮王朝は『国朝五礼儀』で国家の儀礼に定め、毎年旧暦10月に郷校や書院で開かせました。17世紀ごろには名ばかりのものになりましたが、今も酒席でまず目上の人を気づかう韓国の姿と重なる、古い一場面です。

韓国のお酒の種類や飲酒にまつわる法律は、韓国のお酒のルールガイドで別にまとめています。


昔の韓国人はひとりで食べていた?

意外な事実をひとつ。朝鮮時代の基本の食卓は독상(トクサン)、つまり1人に1つずつお膳が出る「ひとり膳」でした。『韓国民俗大百科事典』によると、2人で同じお膳を囲む겸상(キョムサン)が許されたのは、祖父と孫のように2世代以上離れた間柄か、老夫婦、師弟の場合だけ。父と息子のように1世代違いの間柄は、原則として同じお膳を囲みませんでした。同じ事典によれば、むしろ同じお膳で食べることのほうが珍しく、記録に残されるほどだったそうです。

もちろんこれは両班(ヤンバン)の家の作法の話。同じ事典によると、庶民は丸いちゃぶ台「トゥリバン」を囲み、序列にこだわらずに分け合って食べていました。それでも、家族全員がひとつの食卓を囲む光景は、思っているより新しいものです。事典はそれを、都市化・産業化やマンションの食卓の普及以降の習慣だと見ています。そう考えると、今のひとりご飯は、ある意味でとても古い伝統への回帰なのかもしれません。


今の韓国の食卓はどう変わった?

伝統的なルールは、目上の人が同席する場では今もしっかり生きています。けれど2020年代のソウルの飲食店や飲み会の風景は、ずいぶん様変わりしました。

1. みんなでつつく鍋から、取り皿とお玉へ

最近は、チゲや鍋料理を各自の取り皿によそって食べるのが当たり前です。 きっかけは新型コロナでした。2020年6月9日、韓国政府は国務総理が主宰する食品安全政策委員会で、農林畜産食品部と食品医薬品安全処がまとめた「食事文化改善推進方案」を発表。3大課題として料理の取り分け、匙と箸の衛生的な管理、従業員のマスク着用を掲げました。政府は当時、「酒のつまみとして食べるチゲを、何人もがスプーンでつつき合うといった一部の文化」を改善が必要な例として挙げています。

この基準を満たす飲食店は、自治体から안심식당(アンシムシクタン/安心食堂)に指定されました。ソウル市によると、2020年の1年間だけで全国23,467店が指定されています。テーブルに取り皿やお玉、個包装の箸とスプーンが並ぶ光景は、このころから一気に広がりました。

2. 食堂で席に着いたら

23,467店
2020年に全国で指定された「安心食堂」の数(ソウル市)
4.5% → 13.0%
注文用キオスク・タブレットを導入した飲食店の割合、2021→2025年(農林畜産食品部)
36.1%
1人世帯の割合、2024年は804万5,000世帯(国家データ処)
33.8%
2025年の月間暴飲率(17市・道の中央値)、2年連続で低下(疾病管理庁)

3. 焼肉店のルール

韓国の焼肉店では、客が自分で肉を焼くか、店員さんがテーブルで焼いてくれて、肉はハサミで切ります。初めて見て驚く人が多い光景です。サンチュやエゴマの葉に肉、ニンニク、サムジャンをのせて一口サイズに包むのが基本で、さきほどの『士小節』のサンチュの一節を思い出すとちょっと楽しくなります。誰がトングを持つかはグループによってさまざま。目上の人と一緒なら、「僕が焼きます」とひと声かけて先にトングを手に取るだけで、好印象です。メニューと値段はサムギョプサルの値段ガイドをどうぞ。

4. 会計:1人が払って、アプリで割り勘

友人や同僚同士なら、割り勘はごく普通です。 ファイナンシャルニュースが報じた2016年のジョブコリア・アルバモンの調査(会社員・大学生1,307人)では、すでに86.3%が食事や集まりのあとは各自で払うと答えており、いちばん多かったのは1人がまとめて払い、あとで精算するやり方でした。今はカカオペイの「精算する」やカカオバンクの「1/N」といった送金機能で、その場で割ります。決済アプリについては韓国のキャッシュレス決済ガイドで紹介しています。

とはいえ、昔ながらの習慣が消えたわけではありません。先輩や年長者がみんなにごちそうする場面も、「1次会は僕が、2次会は君が」と交互に払う姿も、今も見かけます。誰かがおごってくれたら心を込めてお礼を言い、次はコーヒーでもごちそうするのが無難です。

5. 飲み会と会食:短く、軽く、そしてランチへ

会社の会食(フェシク)は短くなり、お酒なしの会食を望む人が増えています。 世界日報が報じた2022年のインクルートの調査(会社員1,013人)では、コロナ以降の会食文化の変化に満足していると答えた人が94.5%。よくなった点のトップは「1次会で終わり、時間が短くなった」(61.7%)でした。これから望む会食としては、「お酒なしのランチ会食」(45.8%)が「お酒ありの夜の会食」(29.7%)を上回り、特に20代(65.6%)と30代(71.2%)で高い結果に。

公式の統計も同じ方向を示しています。疾病管理庁の地域社会健康調査では、月間暴飲率(17市・道の中央値)が2024年の35.8%から2025年は33.8%へと、2年連続で下がりました。『韓国民俗大百科事典』の「酒道」の項目でさえ、「今や時代は変わった。飲まない人に酒を勧めるのは、酒を失うことだ」と書いているほどです。お酒が飲めない、飲みたくないなら、グラスを受けて口をつけるだけにして置くか、ソフトドリンクで乾杯しても大丈夫。職場の飲み会文化については韓国の会食(フェシク)ガイドで詳しく紹介しています。

6. ひとりご飯は、もう当たり前

韓国の国家データ処によると、2024年の韓国の1人世帯は804万5,000世帯で、全世帯の36.1%と過去最高でした。アジア経済が報じたエムブレイン・トレンドモニターの2025年の会社員調査では、ランチをひとりで食べる人の割合は20代で57.2%。ひとり客向けの1人席や1人前メニューを用意する店もずいぶん増えました。ひとり旅ならひとり旅にやさしい街、ソウルもどうぞ。ただし焼肉店やチゲ専門店の中には、今も2人前以上からしか注文を受けない店があります。

7. 韓国で麺をすすってもいい?

伝統的なマナーでは、音を立てずに食べるのが原則。前に紹介した『士小節』も、麺をすすらないよう戒めていました。今の粉食店(ブンシク)やラーメン店では多少の音は普通ですが、テレビのバラエティ番組で広まった大げさなすすり方면치기(ミョンチギ)については、2022年以降「うるさい」「不衛生だ」という論争が続いています。2026年にも、料理評論家のイ・ヨンジェが東亜日報のコラムでこのブームをあらためて批判しました。音を立ててすするのがむしろ勧められる日本とは逆なので、韓国では静かに食べるほうが無難です。


よくある失敗と、今はもう気にしなくていいこと

🥢
今も避けたいこと
ご飯に箸やスプーンを立てる、目上の人より先に食べる、片手でお酒を受ける、手酌をする、ご飯茶碗を持ち上げる、スプーンと箸を片手で持つ、おかずをかき回す
🍲
今ではおなじみの光景
取り皿に取り分ける、お玉やトングを使う、割り勘やアプリでの精算、水やおかずのセルフサービス、キオスクやタブレットでの注文
🙆
気にしなくて大丈夫
ひとりで外食する、お酒の代わりにソフトドリンクで乾杯する。仲のいい同年代同士なら、両手のマナーもそこまで厳しくありません

これだけ覚えておけば大丈夫

すべてのルールを暗記する必要はありません。目上の人と一緒なら、相手がスプーンを手に取るまで待ち、お酒は両手で受け、顔を少し横に向けて飲む。友人同士なら、取り皿に取り分けて、会計は割り勘に。韓国の人たちは外国からのゲストにはたいてい寛大ですし、心を込めた「チャル モッケッスムニダ」のひと言が、ちょっとした失敗をたいてい帳消しにしてくれます。


韓国・日本・中国の食事マナーの違いは?

🍚 韓国・日本・中国の食事マナー比較(出典を確認できた項目のみ)

項目韓国日本中国
ご飯茶碗食卓に置いたまま、スプーンで食べる手に持って、箸で食べる—
箸・スプーン金属のスプーンと箸、スプーンが中心木の箸、柄の短い陶製のれんげ木や骨の箸、柄の短い陶製のれんげ
ご飯に箸を立てるタブー(死と不運の象徴)タブー(故人に供えるご飯を連想)タブー
麺をすする音伝統的には禁止、今は賛否あり音を立てるのがむしろ推奨される—
お酒の注ぎ方空になってから注ぐ、注ぎ足しは避ける減るとすぐに注ぎ足す傾向(『韓国民俗大百科事典』の説明による)—
器や食卓をたたく『士小節』で禁止—失礼(物乞いが器をたたく姿を連想)

データと出典