タッカンマリは「注文する料理」というより、「みんなでこなす小さな儀式」に近い食べものです。大きなアルミ鍋に澄んだスープと鶏が丸ごと1羽入って運ばれてくると、下のコンロに火がつき、そこから40分ほど、テーブルは決まった順番で鍋を片づけていきます。まず鶏とじゃがいも、最後に麺。この儀式の本拠地が、鍾路5街(チョンノオーガ)の短い路地です。東大門(トンデムン)市場と昔ながらの焼き魚通りのあいだにあり、今も10軒ほどの店がほぼこれ一本で商売を続けています。

まず結論から

  • どんな料理? 鶏1羽をじゃがいも・トック(餅)と一緒に卓上で煮込み、自分で混ぜたタレにつけて食べ、最後に同じスープでカルグクス(麺)を煮て締める料理です。
  • どこで? 鍾路5街にある東大門タッカンマリ横丁。鍾路5街駅(1号線)または東大門駅(1・4号線)から徒歩5〜7分ほどです。
  • 値段は? 路地の店の多くは鶏1羽を30,000〜33,000ウォンとしていて、基本は2人前想定。麺、トック、じゃがいもは追加でそれぞれ2,000〜3,000ウォンほどです(2026年10月にオンラインのメニューで確認)。
  • ひとりでも? 難しめです。路地で半羽を出す店が1軒あるものの、ほかはほぼ2人以上が前提です。

タッカンマリとは?サムゲタンとの違いは?

タッカンマリは鶏1羽をみんなでつつく鍋料理で、ひとり用のスープではありません。 厨房で下ゆでした鶏を、じゃがいもとカレトッ(棒餅)と一緒に浅い鍋のスープに入れて出します。テーブルのコンロで仕上げ、店員さんがハサミで切り分けてくれたら、自分で作ったタレにつけて食べます。肉がなくなったら칼국수 사리(カルグクス・サリ、手切り麺の追加)を頼んで、残りのスープで煮るのがお決まりです。

この最後のひと手間こそが、親戚筋の鶏料理との違いです。サムゲタンは高麗人参ともち米を詰めた小ぶりの若鶏を、1人1羽ずつ土鍋で出す料理で、真夏の保養食(ポヤンシク)の伝統に属します(詳しくはサムゲタンと伏日(ポンナル)のガイドへ)。ペクスクは鶏1羽を薬草の根などと長時間ゆでる料理で、郊外の店で大人数で囲むのが一般的です(ペクスクと保養食のガイドで紹介しています)。タッカンマリには人参も詰め物もなく、スープもあっさりめ。安く、早く、みんなで分けられるようにできた、市場で働く人たちのごはんなのです。

メニューで見かける3つの鶏料理

  • 닭한마리 タッカンマリ:「鶏まるごと1羽」。このガイドで紹介する鍋料理です。
  • 삼계탕 サムゲタン:高麗人参入りの鶏スープ。小さな鶏を1人1羽。
  • 닭볶음탕 / 닭도리탕 タッポックムタン:鶏とじゃがいもの甘辛煮込み。タッカンマリの店でも2品目として出していることが多いので、注文のときに取り違えないように。

鍾路5街のタッカンマリ横丁はどう生まれた?

多くの説では、1970年代後半に東大門の市場で働く人たちの安い食事として始まったとされています。 ただ、細部は語り手によって変わります。ソウル市の2017年の記事は始まりを1978年としていて、市場の商人に鶏カルグクスを出していた店があまりに繁盛し、近くのバスターミナルへ急ぐ客が「タッカンマリ!(鶏1羽!)」と叫ぶだけで注文するようになった、と伝えています。当時、路地のタッカンマリ店は9軒だったそうです。一方、ソウル市の広報誌『ソウルサラン』(2022年)は、1970年代にウォンハルメ(원할매)の現店主の母親が始めたとし、路地が「市場の商人や工場労働者、懐の寂しい会社員」の場として広がったと描いています。韓国観光公社のページは、現存する最古の店としてチノクァ(진옥화)を挙げ、2009年2月の火災のあとに建て直されたと記しています。私たちはこれらを一つの確定した事実ではなく、並び立つ複数の説として扱っています。

確かなのは、その立地です。路地は鍾路5街駅と東大門駅のあいだ、新進市場(シンジン市場)の中にあり、焼き魚通りと隣り合わせ。広蔵市場(カンジャンシジャン)からも歩いてすぐです。いまは地元の人だけでなく旅行者でもにぎわっていて、ニュースサイトのウィキツリーが2026年7月に報じたところでは、一部の店では客の半分以上が日本人だったとのこと。店先に韓国語と日本語の看板を出している店もいくつかあります。


タッカンマリの注文方法と食べ方は?

鶏は2人で1羽、追加の具は最初に決めて、トック→鶏とじゃがいも→麺の順に食べます。 最初の工程はたいてい店員さんがやってくれますが、流れを知っておくと安心です。

注文はこの流れで

  • 数えるのは器ではなく人数。 2人なら「タッカンマリ ハナ」(鶏1羽)、4人なら2羽です。2人・3人・4人用のセットを用意している店もあり、3人の場合「1羽半を」と口コミ投稿者に案内した店もあります。
  • 追加の具は最初に。 トック、じゃがいも(カムジャ)、長ねぎ、きのこは最初から鍋に入れます。口コミによると、チノクァでは麺をスープに入れたあとは追加注文を受けてくれないそうです。
  • 切り分けは店員さんに。 スープが沸くと、店員さんがハサミで鶏を切ってくれます。先に食べごろになるのはトック、鶏とじゃがいもは数分後です。
  • 待つあいだにタレ作り(作り方は下で紹介)。
  • 辛さが欲しければキムチを投入。 終盤にテーブルのキムチをスープに入れて、味を引き締める地元客も多くいます。
  • 締めは麺で。 「カルグクス サリ」(2,000ウォンほど)を頼みましょう。とろみの出たスープで5分ほど煮れば完成です。締めにおかゆやポックンパ(焼き飯)を出す店もあります。

つけダレは自分流で

どのテーブルにも同じセットがあります。다대기(タデギ、粉唐辛子とにんにくのペースト)、醤油、酢、黄色いからし。店によっては刻んだニラやキャベツもあり、タレに浸して食べます。決まったレシピはなく、店側も押しつけてはきません。手始めにタデギをスプーン1〜2杯、醤油を同じくらい、そこに酢をひとたらしとからしを少し。じゃがいもを一切れつけて味見し、好みに合わせて調整します。辛いのが苦手ならタデギを減らして醤油を多めに。スープ自体はまったく辛くありません。

時間帯と行列

  • チノクァは混雑時に整理券を配ります。最近の口コミでは、土曜の夜で30分ほど、ピーク時には最大1時間待ったという声があります。
  • いちばん空いているのは平日の午後なかば、だいたい14:30〜17:00。路地の何軒かは10:00〜10:30ごろに開店し、夜遅くまで営業しています。
  • 1軒に行列ができていても、数歩先のほかの店で同じ料理が食べられます。

タッカンマリはひとりでも食べられる?

食べられます。ただし店選びが肝心です。 タッカンマリは1羽単位で売る料理で、ペクプジャンジプやポンガ・ウォンジョといった店のメニューには、はっきり「2人前」と書かれています。旅行プラットフォームNOLの2025年の特集も、タッカンマリはふつう2人以上が必要だと率直に書いています。路地の中で私たちが見つけた例外が、スニネ・ピンデトッ・タッカンマリ。メニューに半羽が15,000ウォンで載っています。ほかにも半羽を出す店はあるものの、グループ向けの追加分としてのみです。ひとり旅でその店が満席なら、カルグクスやチゲのひとり前のほうが気楽です。キムチチゲ・テンジャンチゲ・チョングクチャンのガイドとペッパン(定食)と運転手食堂(キサシクタン)のガイドは、どちらもひとりごはんを前提にまとめています。


タッカンマリのおすすめ店はどこ?

まず路地そのものから始めて、そのあと行列とは無縁の、地元の人が通う街のタッカンマリ店へと移ります。以下の店はすべて、2026年10月にオンラインで確認した時点で、2025〜2026年の日付入りの口コミや掲載情報がありました。価格は各店がダイニングコード(Dining Code)に載せているメニューによるもので、変わる可能性があります。

🍗
チノクァ・ハルメ・ウォンジョ・タッカンマリ
路地でいちばん名の知れた店。韓国観光公社によると1978年創業。整理券制で、01:00まで営業。
🌿
ミョンドン・タッカンマリ(本店)
名前に反して鍾路5街にあります。路地で唯一、政府指定の百年店舗(2022年)。ハリギリ(オムナム)で煮出したスープ。
👵
ウォンジョ・ウォンハルメ・ソムンナン・タッカンマリ
路地の始まりに関わったと、ソウル市の広報誌が紹介した家族経営の店。2人・3人・4人用のセットあり。
🥢
スニネ・ピンデトッ・タッカンマリ
ひとり客の味方。メニューに半羽があり、緑豆チヂミも食べられます。
🏙️
ペクプジャンジプ・タッカンマリ
鐘閣駅の近くで、地元の人のランチの定番。2人前の鶏が28,000ウォン。

1. チノクァ・ハルメ・ウォンジョ・タッカンマリ(진옥화할매원조닭한마리)— 誰もが知る老舗

多くのガイドブックが案内するのがこの店で、韓国観光公社は創業を1978年としています。2011年に出たミシュランの韓国版『グリーンガイド』に掲載された店のひとつですが、これは旅行ガイドであって、ミシュランの星やビブグルマンとは別物です。メニューは短く、タッカンマリと追加の具、それに鶏の甘辛煮込みだけ。ピーク時は整理券を取るつもりで。口コミではキムチの評判がよく、終盤にスープへ入れる人が多いようです。 鍾路区 鍾路40ガギル18 · 鍾路5街駅5〜6番出口または東大門駅8〜9番出口から徒歩5〜7分ほど · 10:30〜01:00(ラストオーダー23:30)、無休(韓国観光公社) · 掲示メニューではタッカンマリ33,000ウォン。2026年1月のあるブログには28,000ウォンと記録されているので、壁のメニュー板で確認を

📍 Naverマップで開く

2. ミョンドン・タッカンマリ本店(명동닭한마리 본점)— 路地の百年店舗

名前にだまされないでください。今の明洞(ミョンドン)とは何の関係もなく、チノクァから数軒先にあります。政府の百年店舗(ペンニョンガゲ)に登録されたタッカンマリ店はソウルでここだけで、選ばれたのは2022年。登録情報によると、スープは家族が坡州(パジュ)で育てたハリギリ(オムナム)と一緒に煮込み、付け合わせに水キムチが出ます。同じ登録情報に創業年が2通り(登録日の1991年と、初代が1987年に開いたという説明)載っているため、私たちは創業年を断定していません。本店が満席なら、近くの姉妹店コソン店とシジョ店でも同じメニューが食べられます。 鍾路区 鍾路40ガギル14 · 最寄り駅は上と同じ · 百年店舗の登録情報では10:00〜00:30 · オムナム・タッカンマリ33,000ウォン(2人前)、もち米のおかゆ2,000ウォン 📍 Naverマップで開く

3. ウォンジョ・ウォンハルメ・ソムンナン・タッカンマリ(원조원할매소문난닭한마리)— 支店なしの家族経営

ソウル市の広報誌『ソウルサラン』は2022年にこの店を取り上げ、路地で「45年」続く3代目の家族経営で支店はない、と紹介しました。1970年代に路地の始まりを支えたのは店主の母親だったとも書いています。メニューは人数別にまとまっていて、初めてでも注文しやすいのが魅力。2人ならAセット、3人ならB、4人ならCです。野菜のおかわりは1回までだった、という口コミもあります。 鍾路区 鍾路40ガギル25 · 最寄り駅は上と同じ · 11:00〜23:00(日曜は22:30まで) · タッカンマリ33,000ウォン、Aセット(2人)37,000ウォン、B(3人)55,000ウォン、C(4人)69,000ウォン 📍 Naverマップで開く

4. スニネ・ピンデトッ・タッカンマリ(순희네빈대떡 닭한마리 동대문본점)— 半羽が頼める店

ひとつの看板の下に、緑豆チヂミ(ピンデトッ)とタッカンマリの2本立て。ひとり旅の人にとって大事なのはメニューの「半羽」で、路地の有名店はどこもこれをメインの注文としては載せていません。口コミによると、スープにはナツメと高麗人参が入り、少しサムゲタン寄りの味だそうです。同じ住所に別の電話番号で「コンヌン・タッカンマリ(鍾路)」という店も登録されていて、両者の関係は確認できませんでした。スニネの看板を目印にしてください。 鍾路区 鍾路40ガギル20 · 最寄り駅は上と同じ · 10:30〜22:30 · タッカンマリ33,000ウォン、半羽15,000ウォン 📍 Naverマップで開く

5. ペクプジャンジプ・タッカンマリ(백부장집 닭한마리)— オフィス街のタッカンマリ

2017年のニュース記事は、この店が鍾路の一角で30年続いていると伝えています。グルメ番組『水曜美食会』にも登場しました。メニューにはタッカンマリが「2人前」と明記されていて、口コミによると、大人数で分けるときは店員さんがスープを足してくれるそうです。午後の休憩と日曜休みがあるので、鐘閣(チョンガク)や仁寺洞(インサドン)近くでの平日ランチ向きです。 鍾路区 三峰路100-1 · 鐘閣駅(1号線)から徒歩3〜4分ほど · 11:00〜22:00、休憩15:00〜17:00、日曜定休(オンライン掲載情報) · タッカンマリ(2人前)28,000ウォン、トックまたは長ねぎ2,000ウォン、じゃがいも3,000ウォン 📍 Naverマップで開く

🍲 ソウルのタッカンマリ、ほかに6軒(2026年10月にオンラインのメニューで確認)

#店名場所タッカンマリメモアクセス
6チンウォンジョ・タッカンマリ(진원조닭한마리)鍾路252-11、路地の中33,000ウォン角を曲がった奥にあり、席が空いていることが多い。おかゆ3,000ウォン鍾路5街・東大門、約5〜7分
7ミョンドン・タッカンマリ コソン店(명동닭한마리 거성점)鍾路252-933,000ウォンシクシンによると本店創業者の親族が営む店。10:00〜23:00鍾路5街・東大門、約5〜7分
8ポンガ・ウォンジョ・タッカンマリ(본가원조닭한마리)中区 マルンネ路2ギル1924,000ウォン(2人前)手でちぎるスジェビ(すいとん)の追加あり(2,000ウォン)。日曜定休乙支路3街・忠武路、約5分
9トンデ・タッカンマリ(동대닭한마리)筆洞 西愛路16-530,000ウォンほんのり赤いスープ。締めはポックンパ。不定休忠武路、約4〜5分
10ホンデ・タッカンマリ(홍대닭한마리)麻浦区 ワールドカップ北路2ギル812人前セット32,000ウォンセットに麺・じゃがいも・きのこ・トック込み。無休11:00〜23:00弘大入口、約2分
11コンヌン・タッカンマリ本店(공릉닭한마리 본점)蘆原区 東一路102027,000ウォンソウル北部で路地と張り合う存在。詳しくは蘆原(ノウォン)ガイドで泰陵駅4番出口、約5分

📍 チンウォンジョ — Naverマップで開く 📍 コソン店 — Naverマップで開く 📍 ポンガ・ウォンジョ — Naverマップで開く 📍 トンデ — Naverマップで開く 📍 ホンデ・タッカンマリ — Naverマップで開く 📍 コンヌン — Naverマップで開く

「約」をつけた徒歩時間は、地図上の距離から私たちが見積もった目安です。英語メニューの有無はどの店でも確認できていません。メニュー板を指さして、鶏の数を指で示せばどこでも通じます。

あなたに合うのはどの店? 初めてで、並ぶのも苦にならないならチノクァ。同じ料理を行列なしで食べたいなら、同じ路地のチンウォンジョかミョンドン・タッカンマリの支店へ。ひとり旅ならスニネの半羽。ホテルが弘大や鍾路にあるならホンデ・タッカンマリかペクプジャンジプが便利です。

ほかの記事で紹介した街のタッカンマリ

気にして歩けば、タッカンマリはソウルのあちこちにあります。これまでに、忠正路(チュンジョンノ)のタッカル・ウォンジョジプ(1980年)、踏十里(タプシムニ)のチャンウォン・タッカンマリ、彌阿(ミア)の24時間営業オボク・タッカンマリ、石串洞(ソックァンドン)のソックァンドン・タッカンマリを紹介しています。路地の入口では、ソンジョン食堂が1988年から(あるブロガーによれば)練炭で唐辛子だれの豚焼肉を焼いています。この店はプルコギのガイドで独立して取り上げました。締めの麺がいちばんの楽しみという人は、カルグクスの老舗トップ10もどうぞ。

データと出典

  • ソウル市「ネソナンソウル」(2017-08-30)、東大門タッカンマリ横丁:mediahub.seoul.go.kr
  • 『ソウルサラン』(2022-02)、タッカンマリ特集(ウォンハルメ、ホンデ・タッカンマリ):love.seoul.go.kr
  • 韓国観光公社、チノクァ・ハルメ・ウォンジョ・タッカンマリ:english.visitkorea.or.kr · タッカンマリ横丁のページ:korean.visitkorea.or.kr
  • 小商工人市場振興公団、百年店舗登録情報(ミョンドン・タッカンマリ、2022年):sbiz.or.kr
  • フードバンク(2011-05-20)、ミシュラン・グリーンガイド韓国版の掲載店リスト:foodbank.co.kr
  • ウィキツリー(2026-07-14)、タッカンマリ横丁と客層:wikitree.co.kr
  • NOL(2025-03)、タッカンマリの注文方法とひとりごはん:world.nol.com
  • 財経日報(2017-12-06)、ペクプジャンジプ:news.jkn.co.kr
  • 各店のメニュー・営業時間・最近の口コミ:ダイニングコードの各店ページ(2026-10-02確認)